大井川通信

大井川あたりの事ども

高島野十郎の絵

福岡県立美術館に高島野十郎(1890-1975)の展覧会を見にいく。大規模な回顧展を見逃したりしていたので、ずいぶん久し振りに彼の絵を観た。 知り合いの現代美術家が高島野十郎の絵とかつまらない、と言っていたが、何の変哲もない風景画としてみればそのと…

『若菜集』 島崎藤村 1897

読書会の課題詩集として読む。そうでなければ、絶対に手に取ることのない詩集だったと思う。文語で七五調の韻文というもののハードルはやはり高い。 しかし、3作好きな詩を選ぶという事前課題によって、時間をかけて読み進めていくと、若き島崎藤村(1872-…

たかが棒、されど棒

地元のある集会に参加した。被差別当事者の運動体の研修会である。めったにない機会だったので、面白く楽しめた。 こうした運動団体、政治団体、宗教団体の例にもれず、参加者は高齢化している。主力は70代、60代で、ごく少数の「若手」といっても40代以上だ…

海をながれる河

詩人石原吉郎の命日と同じ11月14日に、ハツヨさんは亡くなった。62歳で亡くなった石原吉郎が生きていれば、ハツヨさんと同じ104歳になっていただろう。偶然、二人が同世代であることに気づいた。 昭和12年の結婚し、その後満州に渡ったハツヨさんは、敗戦後…

平等寺の歌姫

田中好さんからメールがあって、ひさのの住人ハツヨさんが亡くなったという。ちょうど一週間ばかり前にお伺いしたときに、眠りの合間に少しだけ声を聞いたところだった。 ハツヨさんは、大正3年(1914年)の104歳。昭和初めの頃の村の盆踊りでは、声のよ…

物言えば唇寒し秋の風

芭蕉の句から転じて、人の悪口(自分の自慢)を言えば後味の悪い思いをするというたとえや、余計なことをいえば災いを招くというたとえで使われる、と辞書にはある。 僕は以前から、苦い思いでこの言葉をかみしめることが多かった。現に今日もそうだ。ただそ…

悲しみはかたい物質だ 

別の詩を探していて、この一行に目が釘付けとなった。石原吉郎(1915-1977)の「物質」という詩。今の僕の思いとは少し距離があるけれども、こんな詩に再会すると、石原吉郎の詩集をていねいに読んでおきたい、という気持ちになる。そんな気持ちのまま、何…

猫と私と、生まれなかった兄と

休日の昼間に、通信教育で四教科の試験を受けた。ネットで該当のページを開いて待機していると、指定の時間に問題文が見られるようになり、50分で回答を作成する。便利な世の中になったが、本当に久しぶりの試験で、だいぶ消耗してしまった。 と同時に、頭…

仏壇のゆくえ

旧玉乃井旅館の安部さんの書庫には、亡き友人のためのコーナーがある。その小さな書棚には、考古学を専攻していたという安部さんの親しい友人亀井さんの形見の本が並んでいるのだが、僕は以前から、その薄暗い一角が仏壇のように思えていた。 仏壇というのは…

ある講演会にて

出口治明氏(1948-)の講演会を聞く。ビジネスマン出身の読書家で現大学総長という肩書は、ちょっと敬遠したいタイプではあるが、話は明快で面白かった。いかにも実社会で練れた人柄にも好感を持てた。 この30年間の日本の衰退は、新しい産業を起こすことが…

父親と落語

父親は渋谷道玄坂の生まれだった。戦前のことだから、父親の家族は転々と借家を替わったらしい。今でいうと「懐古厨」というのだろうか、父親は、昔住んでいた場所を訪ね歩くことがあって、何か所か、子どもの頃つきあわされたのを覚えている。もちろん、当…

九太郎のふみふみ

令和最初の日に、我が家にやってきた九太郎は、手のひらサイズで600グラムにもみたなかった。おくびょうで警戒心がつよかったから、同じころの八ちゃんのように自分から寄ってきて甘えるということはなかった。 先月に無事に去勢手術をすませて、体重ももう3…

缶コーヒーの思い出

最寄り駅の近くの自販機で、UCCのミルクコーヒーを販売するようになった。上から茶色、白色、赤色の帯で3色に塗り分けられ、真ん中にUCCのロゴが目立つ缶コーヒーを自販機で見るのは、本当に久しぶりな気がする。 遠慮がちに金額も80円と控えめだから、つい…

『先見力の達人 長谷川慶太郎』 谷沢永一 1992

経済評論家の長谷川慶太郎(1927-2019)が亡くなった。東西冷戦の終焉とバブルの崩壊の時代、この先世の中はどう動くのか不安になって、経済本を読み漁っていたときがあって、彼の本を読んだり、テレビで話を聞いたりしていた。 そのころ買って、読まずに手…

笠仏さま

笠仏(かさぼとけ)さまの絵本の製作が、頓挫している。聞き取りができたのが、4年前。3年前には、簡単な絵コンテを妻に渡した。妻が実際に絵を描いたのは、その1年後だが、その時には僕も気乗りがしなくなっていて、妻の絵を2年間放置している。 大井の…

大井のはちみつ

家を一歩もでたくない。ゼンマイがほどけてしまったような、電池が切れてしまったような休日が、僕にはよくある。そんな日は、本も読まずに、何も考えずに、昼寝をしたりして一日を過ごす。 お腹がすいたので、一枚の食パンを取り出し、はちみつをたっぷり塗…

こんな夢をみた(映画館)

テレビを見ていると、ドキュメンタリー番組に、昔の高校のクラスメートの女の子が出ている。とても目立たない人だったけれど、主人公の中年過ぎの女性は、まちがいなく彼女だと思えた。 何かの苦難を受けているのは間違いないが、それが家族の病気なのか障害…

趣味と禁忌

小学生の頃、手品ばかりやっていて、学校の成績が落ちてしまったときに、父親から手品師になるつもりかと怒られたことがある。なってもいいのだけれどと思いながら、そこはすなおに手品を控えるようになった。 中学生になって、小説を読むようになったときも…

テンちゃんと山伏どん

休みの日。妻は彫金教室に、次男は温泉施設に出かけたので、昼前にぶらりと家を出る。車だから、今日は大井川歩きモードではない。 駅近くのランチカフェで、マスターの高崎さんと、ランチを食べながら話し込む。ゆるキャラを考案し、絵本をはじめとする商品…

本の読み方・本との戦い方

読書会の課題図書の小説『輝ける闇』をさっさと読み切って、期限の迫ったレポートを手早く書き上げた上で、腑に落ちないところを考え込んだ。それで翌日の会には、何とか自分なりの読みを持ち込むことができた。その少し前に別の読書会で読んだ評論系の『急…

『輝ける闇』 開高健 1968

読書会の課題図書。高名な小説家開高健(1930-1989)を初めて読む。僕の親世代の作家で、今の僕の年齢くらいで亡くなっていることを知る。 ベトナム戦争で南ベトナム軍に従軍し、ジャングルでゲリラに迎え撃たれ、部隊の多くが戦死するなかで敗走する場面が…

ひさの5周年祝賀会手品演目

ひさの5周年のお祝いの食事会に招待された。昨年のデイサービスゆいまーる5周年に引き続いて、手品を披露する機会をいただいた。小学校以来、芸歴は50年近くになるが、ステージマジックを実演する機会はめったになく、できる演目も限られている。 記憶に…

樹空(つづき)

樹空という言葉で思い出したもう一つの詩は、僕の好きな丸山薫の、詩集にも入っていない無名の詩「樹と少女」だ。長い詩なので、5連中の第3連のみ引用する。 或る夜ふけ なにかの声で/不意に眠りから呼び戻された/月があったので私は無灯で庭へおりた/…

樹空

樹空という言葉はあるのだろうか。ネットで見ると、富士山の近くの公園の名前として出てくるだけだ。 以前、知り合いの画家の山本陽子さんの展覧会に行ったとき、テーマが「樹空」だと教えられたことがある。樹の梢や枝の葉がふれているあたりの空間のことだ…

あるデザイナーのあしあと

2年前に近所のマンモス団地で行われた連続講座に通った。題して、団地再生塾。建設して半世紀近くなる団地には、高齢化や空き家の増加等の問題がある。それを住民主体で、様々な手法や実践事例を学びながら考えようという講座だった。 中心人物が大学の建築…

ごちゃごちゃになる

新しい猫の九太郎が我が家にやってきてしばらくは、九ちゃんのことを、前の猫の名前八ちゃんと呼んでいることが多かった。そのうち、九ちゃんと呼んだり、八ちゃんと呼んだり、ごちゃごちゃになってしまう。さすがに今では、九ちゃんに統一されてきたようだ…

『急に具合が悪くなる』 宮野真生子・磯野真穂 2019

ガンで死に直面した哲学者と友人の文化人類学者との往復書簡。読書会の課題図書として読んだのだが、僕には、とても読み進めるのが難しい本だった。 細かい違和感は多くあるのだが、その大本を探っていくと、次の二点に突き当たる。 一点目は、礒野さんの書…

大井川沿いを「ひさの」まで歩く

朝、家を出る。久々に遠出を考えて、遠くに見える多礼村の里山を目標にしようと思い立つ。大井川の水辺で、イソシギがおしりを振っているのを眺めてから、古民家カフェの村ちゃこに寄ったのが間違いだった。 村の賢人原田さんが難しい顔をして、何やら書をし…

くまちゃんと九太郎

臆病な九太郎は、僕がいるときしか二階には上がってこない。誰もいない二階で、どしんばたんと音を響かせて運動会をしていたはっちゃんとは、まるでちがう。 だから、座敷猫の九太郎は、一階のリビングやキッチンが中心の狭い世界の中で暮らしている。登場人…

テンもいてんの?

玄関先のポーチに細長い小さなフンが置かれている。妻に聞くと、以前から時々見かけるらしい。ネットで調べると、イタチのフンであることがわかった。 イタチは石張りの玄関にフンをすることを好むという習性までわかった。フン害にあった人が、ネットで現場…