大井川通信

大井川あたりの事ども

その短くはない生涯を短く語る

旧玉乃井旅館での「おはなし会」で、安部文範さんの話を聞いた。タイトルには、安部さんらしいユーモアがこめられているが、こうした微妙な感覚は、おそらく世代限定のものなのだろう。 安部さんは、僕よりほぼ10歳年長だ。1960年代、70年代は、日本社会にと…

『侵入者』 折原一 2014

叙述トリックを得意とする推理作家というイメージのある折原一(1951-)の、比較的新しい作品を読んでみる。90年代の前半の頃に、熱心に面白く読んだ記憶があるが、その後遠ざかっていた。 ミステリーファンでないのでおおざっぱのことしか言えないが、折原…

安部重郎氏のこと(祖母の思い出)

大井村本村の住人安部重郎氏(1899-1982)は、母親の33回忌(1971)に親族に話した内容を、「我が家我が父母」という手記にして残している。現在は東京の田無(田村隆一の詩「保谷」の隣町)に住む重郎氏の娘さんからお借りして、読むことができた。 40頁ほ…

波切不動明王の由来

津屋崎で玉乃井旅館の玄関先のホコラの修繕に関わっているので、身近な小さな神様についてあらためて考えている。集落では村単位でまつる氏神の他に、村内の組ごとにまつるホコラがある。それよりさらに小さな単位(一族や近隣や家など)でまつる神様となる…

ケヤキの根を掘る

ケヤキは、子どもの頃からなじみ深い木だ。隣町の府中の街中にはケヤキ並木があったし、古い農家の屋敷森には、巨大なケヤキが目立っていた。僕にとって、武蔵野のイメージに欠かせない木なのだ。 その理由をあれこれ思いめぐらしていて、昔から好きだった詩…

『天啓の殺意』 中町信 1982(2005改稿)

本文庫の解説者は、「叙述トリック」を「Aという事柄(人物)をBという事柄(人物)に錯覚させるトリック」と定義している。僕は推理小説の中でも、このトリックに特に魅力を感じてきた。そこには、何かこの世界の成り立ちの秘密に触れるようなところがある…

行く鳥・来る鳥

数日前、大井川の土手の近くを歩いていると、足もとから一せいに飛び立つ鳥の群れがあった。ハトかムクドリだろう。電線に止まった一羽に双眼鏡を向けると、なんとツグミだった。冬の野原では単独行動が目立つツグミも、群れで渡りに備える季節になったのだ。…

こんな夢をみた(恋愛ドラマ)

初めは実写ドラマ風の展開。主人公は彼女と暮らしているのだが、何かの間違いでだれか別の人間を殺してしまう。彼女はそれを知ると、意外なほど度胸がすわっていて、事件の隠蔽に協力してくれる。 するとここでは僕がなぜかその主人公になっている。もう彼女…

『世界史の実験』 柄谷行人 2019

柄谷行人の新著。こんどこそは、という思いで期待して読んだけれども、目覚ましい読後感はなかった。 柄谷の著作を熱心に読んで刺激を受けたのは、2000年頃、柄谷がNAMという社会運動を行っていた頃までだ。それ以降の多くの著作は積読状態で、何冊かの手軽…

『模倣の殺意』 中町信 1971(2004改稿)

久しぶりに推理小説を読んだ。推理小説は一時期熱心に読んだことはあるが、何かが語れるような読者では全くない。この本も、書店で「これはすごい」という帯を見て、気まぐれに手にとったものだ。 面白かったので一気に読めたが、思ったより昔の作品で、僕の…

ホコラを修復する

小さな木造のホコラの修復作業で、一日大工仕事をする。生涯はじめての事だ。宮大工の末席のそのまた末席に連なったみたいで、うれしい。 津屋崎の旧玉乃井旅館の玄関脇にある恵比寿様の修復を行うプロジェクトに応募したのだ。寺社建築に実績のある建築士と…

向山洋一氏の教師修行

向山洋一さん(1943-)は、教育技術法則化運動で名高い教師で、たくさんの著書を持っている。彼が新任当時、我流で始めた教師修行について書いているものを読んで、その内容が強く印象に残った。優秀な教師ならば、そのことの意味が即座にわかるのだろうが…

聖徳太子とプロ教師

学校の教員と接するようになって、驚くのはその技量の差である。まさにプロと呼べるような先生がいると同時に、素人同然の授業しかできないベテラン教員もいる。本来はすべて専門家であるはずの教員の世界の中で、「プロ教師」などという呼び名がリアリティ…

一者対多数のコミュニケーション

今年度から教育系の大学で専任講師をしている友人が地元に戻ったので、久しぶりに会って話をした。とびきり優秀な小学校教師だった彼は、大学という職場でも、新しい環境を楽しみながら、研究に教育にフル回転している。若い友人の活躍というのは、本当に気…

こんな夢をみた(関西家族旅行)

家族がどこかに連れていけというので、新幹線で大阪に行くことにする。途中で倉敷にいる息子にも会えるかもしれない。大阪駅に着くと、近くに球場があるので、今から今日の試合のチケットが買えるかと聞くと、切符切りの男が、外野席なら買えないことはおま…

いとうせいこうの沈黙

夕方、テレビを見ていると、教育テレビの子ども番組でいつものように、いとうせいこうが派手な衣装で出演している。まだやってるのか。チャンネルを変えると、そこにもいとうせいこうの大写しの顔が現れる。こっちはちょっと真剣な表情。 ローカルニュース番…

喫茶店「ぽけっと」を探す

黄金市場に寄ったときに、近所にあった喫茶店のことを思い出した。 バーのようなカウンターがあって、夜まで営業していたから、会社の帰りに寄っていた記憶がある。NTTに勤めるタシロさんという人が常連で、いつもカウンターの正面に陣取っていた。「ぽけっ…

なんもかんもたいへん、いらっしゃい

若いころ住んでいたアパートの近くに、黄金(こがね)市場という商店街がある。アーケードのかかったメインの商店街の周囲にお店が集まり、隣接する古い木造の建物の中の路地にも商店が連なっている。 この路地の方の一角。シャッターを半分だけ開けて、間口…

春の鳥

朝風呂に入っていたら、ホーホケキョというさえずりが小さく聞こえる。今年は暖冬だから、真冬なのにビックリするくらい温かい日にウグイスのさえずりを聞いてはいたが、春先に聞くのは初めてである。それも自宅で、というのはうれしい。 トンビのピーヒョロ…

こんな夢をみた(締め切り)

テストの直前なのになんの準備もしていない、さあどうしよう、という夢はずいぶんみてきた。さすがに最近は頻度はだいぶへったが、社会人になってからも見続けた。実際の生活では、仕事が間に合わなかったり、成果がでなかったような失敗は絶えずで、仕事に…

『蜜柑』と『檸檬』

読書会の課題図書で、梶井基次郎(1901-1932)の短編集を読んだ。学生時代、愛読していたつもりだったが、『檸檬』以外はあまり記憶に残っておらず、今読んでもピンとはこない。『檸檬』は別格という感じがするが、もし梶井が『檸檬』を書いていなかったら…

表札をかえる

実家を取り壊すことになって、いくらか実家の備品を持ってきたけれど、その中に表札がある。父親が知人に彫ってもらった木の表札で、おそらく40年くらいは玄関にかけられていた。ずっと両親の面倒を見てくれて実家の管理をしていた姉だけれども、この表札に…

民博の展示室にて

万博記念公園に出向いた際に、国立民族学博物館(通称は民博)によって展示室を見学した。この手の地味な展示に関しては、飽きっぽくこらえ性の無い僕は、もともと苦手だ。世界の地理や文化についての関心も知識も薄っぺらだし、その上太陽の塔内外で相当歩…

『やねのいえ』 てづかたかはる+てづかゆい 2014

昨年末、ある会合で、建築家手塚貴晴さんの講演を聞いた。手塚さんは、真冬なのに青いTシャツ姿で、いつもそれで通しているのだという。ちなみに奥さんの由比さんは赤い色で、たしか二人のお子さんにも固定したイメージカラーがあるとのことだった。講演の…

大本教と八龍神社(その2)

大本教と大和良作、栗原白嶺との関係を簡単な年表にしてみよう。 ・大正10年(1921年) 第一次大本事件 ・昭和7年(1932年) 大和良作、栗原白嶺と共著出版。 ・昭和9年(1934年) 大和良作の主導で地元に八龍神社建立。 ・昭和10年(1935年) 12月第二次大…

大本教と八龍神社(その1)

地元の大井川歩きで、思わぬ場所で大本教の名前を聞いたことがある。 大井とは隣村にある地域なのだが、そこは組ごとに庚申塔が残っており、寺社も多く、古い信仰が守られていそうな集落だ。八龍神社という地図にものっている神社があるのだが、近所の人から…

彼女はどうして神になったか?

天理教の教祖中山みきが神がかりをしたのが41歳、大本教の出口なおにいたっては55歳のときである。二人とも、その時までは、農家の嫁や母親として、あらゆる苦難に耐えて、辛抱強く家族の暮らしを支えていた。 何十年という時間の重さは、半端ではない。僕も…

『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』 内山節 2007

魅力的な書名。信用のおける著者。活字も大きく薄めの新書。にもかかわらず、読み終えるまでにずいぶん時間がかかってしまった。ようやく手に取ったのが一カ月以上前だったと思うし、そもそも10年以上前の出版だというのが信じられない。まっさきに購入して…

『「太陽の塔」新発見!』 平野暁臣 2018

以前から、岡本太郎が気になっていた。彼の画集や評論を持っているし、展覧会も見たし、青山の記念館にも行った。ガチャポンの小さな作品模型もいくつかあるはずだ。しかし、彼が好きとは、表立っていいにくい。 この本を読むと、万博と太陽の塔の成功によっ…

万博記念公園を歩く

大阪の行く用事があったので、万博記念公園まで足を伸ばして、太陽の塔を見た。はじめてのことだ。内部公開の予約もしていたので、待ち時間、太陽の塔のスケッチをしたりした。塔は、外観、内部ともとてもよかった。そのことについては、別に書きたい。 塔に…