大井川通信

大井川あたりの事ども

博多一家四人殺害事件(事件の現場3)

大井川周辺の聞き取りでも、何らかの事件や事故に関連して、その供養のためにまつられた石仏やホコラの話が何件もでてくる。旅の人間が行き倒れになった場所に不動さんをまつったとか、殺人のたたりから子孫を守るための地蔵とか、雷に打たれて人が亡くなっ…

ランドマークとしての神々

国立の実家に帰ると、谷保にでかける。かつて段丘下に田んぼが広がって多摩川まで続いていたのだが、今は住宅街に姿を変えて面影がない。しかし段丘に沿った谷保天満宮の境内だけは、子どもの頃遊んだ姿とほとんど変わらない。 国立は大正時代に街の開発とと…

チョウゲンボウを見た

初夢の縁起物として、一富士二鷹三茄子、と言われるくらいだから、昔から鷹は珍重されてきたのだろう。トンビが鷹を産む、ということわざからは、姿形が立派でもめったに生きた獲物の狩りをしないトンビは、鷹のカテゴリーに入れてもらえないことがわかる。…

『雨の日はお化けがいるから』 諸星大二郎 2018

ほぼ新作のみの作品集だけれども、いい方向に予想が外れて面白く、一気に読めた。民俗もの、少年の非日常体験、中国もの、ナンセンス、ギャグ、異世界もの等、バラエティに富んで初期の本のような楽しさがある。実は先日三巻で完結した現代が舞台の魔術もの…

『はじめに子どもありき』 平野朝久 1994

教育が、今とても困難なところに来ているのは衆目の一致するところだろう。ただ、その現状を、一方的な非難ややみくもな叱咤激励ではなく、適切に説明してくれる言葉はなかなか見当たらない。それで、自分なりに教育現場を外から観察して、仮にこんな見取り…

『雨・赤毛』 モーム短編集 新潮文庫

◎『雨』 キリスト教の罪悪や恥辱の観念の本質が、宣教師デイヴィッドソン夫妻の言動を通じてえぐられる思想劇。南洋の現地人の文化や奔放な若い女性トムソンに対して、かれらは信仰において容赦ない。南洋の洪水のような雨の「原始的自然力のもつ敵意」を前…

某八幡宮宮司殺人事件(事件の現場2)

昨年末に、東京の有名神社で、姉の宮司を、元宮司の弟夫婦が待ち伏せして日本刀で刺殺し、自害するという凄惨な事件が世間を騒がした。 この事件は、元宮司のかつての豪遊等の報道で、由緒ある神社の経営の乱脈ぶりを明らかにした。しょせん世俗まみれなのか…

『うしろめたさの人類学』 松村圭一郎 2017

この本を読者への「越境的な贈り物」にしようとする著者の真面目さは疑えないが、一読後の印象は微妙で、少なくとも『弱いつながり』のような希望を感じることはできなかった。その理由を考えてみる。 当初の連載時のテーマが「構築人類学入門」だったためだ…

センダンの生存戦略

海に近いこの地方では、松や杉などの常緑樹に混じって、すっかり葉を落とし、枯れ枝に鈴なりの実をつけたセンダンの木が目立つようになった。サクランボより小さな黄色っぽい実が、太陽の光を浴びると金色に輝いて意外なほど美しい。 鳥見の会に参加して、ま…

年頭の覚書

一週間七日のローテーションを想定してみる。 批評系の本の書評を一つ。小説の書評を一つ。今のところあまり書けていないけれども、詩歌や映画や演劇に関する文章を一つ。どんなに稚拙でも、批評、小説、詩等について自分の言葉で考えられるようにしたい。以…

就職という通過儀礼

長男が赴任地から帰省したら、ずいぶん素直になっていたと妻がいう。たしかに笑顔が多くなっているが、その顔は少し自信なさげにも見える。雰囲気で言うと、中高生ぐらいの面影に戻っているようだ。彼自身も就職した友人に久しぶりに会ったら、幼くなったよ…

フリースペースとしての神々

近隣にある集落が、里山の山上にクロスミ様という神様をまつっている。集落の人口が減りだしたときに、住民たちがクロスミ様をおろそかにしたためではないかと考えて、ホコラを囲う小堂をつくり、それだけでなく、由来を書いた説明板と、街道脇にクロスミ様…

『ジゴロとジゴレット』 モーム傑作選 新潮文庫(その2 )

◯『マウントドラーゴ卿』 登場人物は3人。精神分析医のオードリン医師と、診察室で向き合う外務大臣のマウントドラーゴ卿。そして患者の悪夢に登場する下院議員のグリフィス。 オードリン医師は、患者を治す特別な資質に恵まれているために名医とされるが、…

『弱いつながり』 東浩紀 2014

新年からすがすがしい本をよんだ。昨年は新刊の『観光客の哲学』に出会って、だいぶ考えさせられて、とても役に立ったけれども、東浩紀は何年も前からこんなすっきりした文体を手に入れていたんだと感心する。なんのてらいも臭みもなく、新鮮で大切な知見を…

北九州監禁殺人事件(事件の現場1)

大学を出て、新卒で就職した会社で、北九州に赴任した。前任者の借りていたアパートがモノレールの駅の近くにあって、そこに入居した。周囲はお寺が多い湿っぽい路地で、少し歩くとタバコ屋があり、小さな雑居ビルのようなマンションの一階に喫茶店もあった…

年末にニュータウンの境界を歩く

郊外のリノベーションの連続ワークショップで、自分の経験から、開発団地の境界付近が面白いという発言を何回かした。年末時間が空いたので、当該ニュータウンの境界線を実際に歩いてみることにする。大晦日という一年の境界の日の、黄昏時という昼夜の境界…

木で作る話

ずいぶん久しぶりに筑豊山中の木工の展示会に顔を出した。夫婦と帰省中の長男と3人、正月のドライブを兼ねて。工房「杜の舟」の主人内野筑豊さんは、絵や文もたしなむ才人で、常に新たな造形を生み出す作家性と、ていねいに作品を作りこむ職人気質を兼ね備…

木を倒す話

正月も特別な休みのない次男を、暗い中、駅まで送る。ついでに早朝の大社に初詣に寄った。駐車場は早くも車がごった返しているが、列をつくるほどではない。例年よりなぜか夜店が少なく、北海道から来る名物女将の「東京ケーキ」が店を出していないのが気に…

情報端末としての神々

以前のことになるが、初詣で渋滞する道路の脇に小さな神社を見つけた時、ご利益のある有名な神社の近所にわざわざ小社がある理由が腑に落ちなかったことをよく覚えている。やがて「大井川歩き」を始めて、村ごとに氏神や産土(うぶすな)といわれる村社をま…

『東京少年昆虫図鑑』 泉麻人(文) 安永一正(絵) 2001

泉麻人は、僕より5歳ほど年長だ。高度成長期の東京で5年の差というのは大きい。ただし23区内に育った泉よりも、はるか西の郊外育ちの僕の方が自然に恵まれていたとはいえるだろう。いずれにしろ、虫をめぐる共通の体験が、当事者ならではの重箱の隅をつ…

『ジゴロとジゴレット』モーム傑作選 新潮文庫

◎「征服されざる者」 昔、柄谷行人の講演で、坂口安吾論を聞いたことがある。無慈悲に突き放される物語にこそ文学の原型がある、という安吾のエッセイを中心に論じていた。この小説を読んで、そのときの話を思い出した。この短編の読後感は、僕には『月と六…

『奇妙で美しい石の世界』 山田英春 2017

著者の名前にひかれて、自分にはずいぶん場違いな本を買ってしまったと思っていた。主に瑪瑙(メノウ)などの石の断面の「奇妙で美しい」模様を図版で解説する本だ。しかし読みながら、自分も石について興味があって、何冊も本持っていることを思い出した。…

がらんどうの長い商店街で

勤め先の介護施設のクリスマス会で、次男が出し物をやるというから、休日なので車で送り迎えすることにした。次男には、座布団回しという特技がある。この特技というのが不思議で、家にある座布団でたまたまやってみたら出来て、癖になって回しているうちに…

ミサゴの寒中ダイブ

強い海風が吹きすさぶ上空を悠然とミサゴが飛ぶ。風にのって旋回する姿は一見トビのようだが、羽ばたきはずっと力強い。ウミネコのようなしなやかな翼に短い胴をもつ白っぽいタカで、翼を開いた長さは大人の身長ほどもある。 広い河口には、次々に白い波が打…

興国寺仏殿 福岡県福智町(禅宗様建築ノート2)

念願の禅宗様についての文章を書きはじめることができたので、地元では貴重な禅宗様仏殿に立ち寄ってみた。なだらかな傾斜地の奥の山懐にある曹洞宗の寺院で、なんど訪れてもロケーションはすばらしく、参拝の途上、伽藍を遠望できるのもいい。禅寺としての…

その後の樋口一葉

読書会で、樋口一葉(1872~1896)の短編の続きを考えるという課題がでた。一葉の小説を読むと、まず大人の世界がしっかり描かれていることに驚く。脇を固める市井の人たちが生き生きとして実に魅力的だ。 主人公の方は『にごりえ』のお力、『十三夜』のお関…

ニュータウンのアイデンティティ

郊外のリノベーションをめぐる連続講座で、今回は都市計画が専門の黒瀬武史さんの話を聞いた。デトロイトの住宅地の衰退と再生の試みの報告で、住宅地の衰退ぶりは驚くほどだが、一方再生のアイデアの大胆さにも驚かされた。 一つの都市をゼロから立ち上げて…

『敗者の想像力』 加藤典洋 2017

加藤典洋は、比喩の使い手だ。思ってもみないような比喩を持ち出し、作品や現実の意外な真実を引き出す。それが何年か前に、久しぶりに彼の本を手に取ったとき、その比喩の精度がずいぶん落ちたような印象を受けた。この新著でその印象は決定的になった。全…

プライバシーの境界線

日本全国もそうなのだろうが、僕の住む地域はとんでもない冷え込みである。真冬の一番寒い時のような気候が、12月に入って続いている。例年12月は、けっこう暖かい日が続いていたと思う。そんなわけで大井川歩きの看板が泣くような休日を過ごしているの…

閉校する短大で

町にある短大が、来春で閉校するという。公開講座があったので、都合のつく日程で申し込んでみた。初めて入るキャンパスは駅近くの高台にあって、小規模だが周囲の自然も映えて感じがいい。 廃校となる学校の卒業生は、どんな思いを抱くのだろうか。古い感覚…