大井川通信

大井川あたりの事ども

『カセットテープ少年時代』 マキタスポーツ×スージー鈴木 2018

「80年代歌謡曲解放区」が副題。BSテレビでの二人の対談番組の書籍化。 サザンやチェッカーズやユーミン、松田聖子など、80年代当時に爆発的に売れて、時代の音楽としてすっかり耳になじんでいるけれども、語られることが少なかった歌謡曲を、縦横無尽に語り…

『少女不十分』 西尾維新 2011

はじめから逃げをうつようだが、西尾維新という作家も、彼が描く作品のジャンルも、ほとんど何もしらない。おそらくジャンルによる特有の約束事や、楽しみ方のようなものがあるのだろう。それだけでなく、巻末の作品リストや、帯でのコピーから判断するかぎ…

ツバメの再来

僕の住む街では、ツバメは、三月の中旬にやってきて、八月の終わり頃に姿を消す。初めて見た日は印象に残るが、最後に見た日というのはなかなかわからない。9月に入って、あれそういえば近頃まったく見ないな、と気づくくらいだ。 ツバメを見かけなくなって…

山雀の五右衛門風呂

ヤマガラ(山雀)は、住宅街にもよくでてくるシジュウカラ(四十雀)によく似た小鳥だ。シジュウカラは、黒白の頭に灰色の羽をもつ小鳥。こうかくと地味なようだが、色の塗分けがきれいで、モダンな印象。 一方、ヤマガラは、お腹が濃いオレンジなのはいいが…

榜示(ぼうじ)とクスの木

ようやく涼しい日が続くようになってきた。今年は、7月から連日の猛暑が続き、8月のお盆がすぎても、暑さが手をゆるめなかった。35度超が当たり前だった。足首を痛めるというアクシデントも加わり、しばらく歩いていなかったのだが、今朝久しぶりに、住…

天体望遠鏡の話

実家の片付けをしていたら、押し入れの奥に細長い段ボールが立てかけてあるのを見つけた。すっかり忘れていたが、小学生の時に買った天体望遠鏡である。 アポロ計画をはじめとする宇宙開発にも影響されたのだろうが、当時の子どもたちの間で、天文学や天体観…

9.11の夜

どうということのない日常の出来事が、いつまでも新鮮に思い出されるということはあるが、やはり社会的に大きな事件は、はっきり記憶に残るものだ。 2001年の当時は、仕事が忙しく、深夜の帰宅が当たり前だった。長男が小学校に入学し、次男は2歳に。頭を床…

『くだもののにおいのする日』 松井啓子 1980

2014年に新装復刊された詩集を購入した。学生時代、詩をよく読んでいた頃に活躍していた詩人だから、名前くらいは知っていた。 ひとりでごはんを食べていると/うしろで何か落ちるでしょ/ふりむくと/また何か落ちるでしょ ちょっと落ちて/どんどん落ちて…

羽田信生先生のこと

今年も、近所の浄土真宗の勉強会に、米国から羽田信生先生が講義に来られたので、公開講座に参加した。8年前に初めてお話をうかがってから、講義を聴講するのは5回目になるが、そのつど強い印象を受けた。仏教徒でもなく、宗教についても門外漢の僕が、仏…

疲れる若者

『通勤電車で読む詩集』で、トーマ・ヒロコという若い詩人の「ひとつでいい」という詩を読んだ。以下、末尾を引用する。 おはようも/ありがとうも/ごめんなさいも/さようならも/おやすみも/もう要らない/この世を生き抜くためには/挨拶はひとつでいい…

「当事者マウンティング」について(その3)

かなり以前のことになるが、ある「当事者」の運動において、差別葉書が連続して送付されて話題となったことがあった。同じ被害者のもとに届く差別葉書は何十通にも及んで、その内容はエスカレートしていく。被害者のことは運動の機関誌でとりあげられ、集会…

セミの死によう

生き様(ざま)という言葉はよく使われるけれども自分は嫌いだ、という誰かの文章を読んだことがある。たしかに、力みかえった誇張が感じられるし、音の響きもうつくしくはない。同じ漢字でも、「生きよう」と読んだ方が、やさしく、軽い語感となる。 ここで…

「当事者マウンティング」について(その2)

「当事者マウンティング」という造語について、それが、多数派であり、強者である「当事者」をターゲットにしているから、問題ないのではないか、ということを書いた。 たしかに、この言葉が、少数者であり、被差別者である「当事者」に対して使われる可能性…

「当事者マウンティング」について(その1)

たまたまネットで、「当事者マウンティング」という記事を読んで、しばらく考え込んでしまった。若いころ、この問題をめぐってずいぶん消耗した記憶があるからだ。 一読して、あるカテゴリーの当事者というくくりの中には、多様な要素がある。その差異性を抹…

アンソロジーを読んでみよう

『通勤電車で読む詩集』小池昌代編著。NHK出版の生活人新書の一冊として、2009年に発行された後、増刷を重ね、同新書で別のテーマのアンソロジー企画につながっているから、詩の本としては、ヒットしたものなのだろう。 いつもの採点法をざっと使うと、全41…

9469060522

亡くなった父親は、ちょっとした小物などでも、目立たない場所に購入日を書き込む習慣があった。数字の羅列なのだが、まずは西暦の下二桁。つぎに元号、そのあとに月日がつづく。 しかし、今回、小さな収納箱の引き出しの裏に、表題の長い数字の並びを見つけ…

思いやる力

次男は、言葉を身に付けるのが遅く、軽度の知的障がいがある、ことになっている。しかし、相手の気持ちをおしはかって、相手のために行動する力は、とてもつよく、ふかい。 子どものころ、なじみの駄菓子屋が閉店した時に、おばさんに自分から感謝の手紙を渡…

読書会のあとで

現代詩を扱う本をレポートする読書会が終わった。あらためて思ったことが三つ。 まずは、特定の世代以降、やはり現代詩が読まれなくなっているということ。 次に、自分なりの気づきや発見がありさえすれば、どんな分野でも、なんとか語り通すことができると…

コロッケとメンチカツ

読書会で林芙美子の短編を読んだ。やはり話題は「貧乏」のことに。そこで、自分の貧乏エピソードを話してみた。 子どもの頃、夕食のおかずなどでコロッケを食べることはあっても、メンチカツを食べる機会はあまりなかった。もしかしたら経済的な事情というよ…

好きな詩人を読んでみよう

粕谷栄一(1934-)は、一貫して不条理な寓話風の散文詩を書き継いでいる詩人。現代詩文庫に入っている処女詩集『世界の構造』を読んでファンになったため、目についた時に購入した詩集を二冊持っている。そのうちの一冊『鏡と街』(1992)を、5年ほど前に半…

平山鉱業所の話(その2)

津屋崎海岸に面して建つ旧旅館に住む友人がいる。その旧旅館の別館を老朽化のために取り壊すことになった。友人は、現代美術にかかわりを持つ人だったから、その前に旧旅館全体を会場にして、現代美術展をおこないたい。それも半年くらいの期間を使って、会…

平山鉱業所の話(その1)

新刊の『絵はがきの大日本帝国』(二松啓紀著 平凡社新書)をながめていたら、産業発展をあつかった章で、炭鉱関連の二枚の絵葉書の画像があった。ただ二枚とも平山鉱業所のものなのが、少し意外な感じがした。全国には、はるかに規模が大きくて有名な炭鉱が…

無名の詩人を読んでみよう

数少ない有名な詩人以外にも、多くの人が詩を書いているだろう。彼らは、さほど名が知られていないという意味で「無名」の詩人といえる。たまたま目に触れて気に入ったからとか、知り合いから紹介されたから、などという理由で、彼らの詩集も何冊か、僕の書…

『重版未定』 川崎昌平 2016

『労働者のための漫画の描き方教室』が、とても面白かったものだから、同じ作者の「本業」の漫画の本を読んでみた。『描き方教室』の方で、著者の実際の生活や思想を知っていたので、いっそう楽しく読めたと思う。背景のない単純な絵柄は同様だが、漫画とし…

新しい詩人にも挑戦してみよう

思潮社の現代詩文庫で『三角みづ紀詩集』を読んでみる。以前詩を扱う小さな書店に行ったとき、ちょうど詩人がゲストとして来るイベントの直前で、平積みになっていたので、つきあいで購入したもの。三角みづ紀(1981-)は、僕でもなんとなく名前は知ってい…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その3)

今回のにわか仕立ての詩論のシリーズは、たまたま手元にある詩集と詩に関するなけなしの知識を出発点にするつもりである。実はわかりやすい詩で、まっさきに思い浮かんだのが、井川博年(1940-)だった。 内容的には、身辺雑記や回想風のエッセイがほとんど…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その2)

近頃、衛星放送で、1973年のドラマ『雑居時代』を見ている。子どもの頃、夕方の再放送で夢中になってみた、いわゆる石立ドラマの一本だ。亡くなってしまった石立鉄男も大原麗子も、みな若い。現在老成してしまったかに思える日本社会も、当時はまだ猥雑で、…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう

なぜ僕は詩を読まないか。こんな基本的な問いを考えるのだから、日ごろ気になっている幼稚な疑問についても、ずるずると明るみに引きずりだしてこないといけない。まずは、詩のわかりやすさ。 現代詩は多くは難解であって、特別な言葉使いや表記を駆使し、日…

なぜ僕は詩を読まないか

10日ばかり先に開催されるとある読書会で、僕は現代詩の入門書について報告することになっている。報告者をかって出たのも、本を選んだのも自分だから文句はいえないが、どうも準備がはかどらない。気持ちがのらない。今回、知ったかぶりの知識ではなく、そ…

歴史の男/カリスマ〇〇

足の養生中のため、またワイドショーネタ。 某アマチュアスポーツ協会の内紛で、会長が辞職に追い込まれた。長年の強権的で横暴な振る舞いが、火をつけたらしい。自らを終身会長にして、補助金を勝手に配分したり、試合でも身びいきな判定を強要したりと、め…