大井川通信

大井川あたりの事ども

花月と東洋館

昨年家族の要望で、浅草で漫才を見たいというので、東洋館という寄席に入ってみた。とんでもなく下手な若手や、とんでもなく変なベテランが出演していたが、思ったよりずっと面白く、刺激的な体験となった。 それで今日は、大阪に行くついでに、なんばグラン…

『歴史的実践の構想力』 廣松渉・小阪修平 1991

今日は、廣松渉が亡くなってから、25年目の命日だ。お寺的にはどうかは知らないが、四半世紀というのはやはり大きな区切りだろう。 就職したての頃、雑誌から切り抜いた廣松さんの写真を壁に貼って、読書に励んだりした。訃報に接して、当時の職場で喪服を着…

眼鏡の話

僕は、子どもの頃から視力がそこそこ良くて、2.0の時もあった。本は好きでも、実際に読む時間は短いことも幸いしてか、大人になって視力が目に見えて下がることもなかった。テレビゲームもしなかったし、仕事以外でパソコンをいじる趣味もなかった。 老眼で…

あの虹をこえて

妻の携帯電話が鳴る。勤め帰りの次男からのようだ。妻が料理で手が離せないので、僕が取ると、次男の興奮した声が聞こえる。 すごい虹が出ているから、見てみい。 デッキに出ると、まだ明るい夕方の空を、細く強い光の束が、サーチライトのように駆け上がっ…

フードコートの窃視老人

家族で、近所のモールに買い物に出かける。隣町に巨大なイオンのショッピングモールができてからは、わが町のモールはすっかり中高年向けの施設になってしまった。家族の待ち合わせ場所は、いつものようにフードコートだが、休日だというのに、目につくのは…

タカラダニとナミテントウ

家の垣根のレッドロビンがところどころ虫害で枯れてしまったので、思い切って抜いてしまって、擬木のフェンスを立ててもらった。枯れてない木も伸び放題だったので、庭がだいぶ明るく、広くなったように感じられる。 レッドロビンの垣根については、家族のも…

『経済学のすすめ 私の体験的勉強法』 正村公宏 1979

自分自身の経済や経済学の勉強について、振り返ってみる。80年に大学に入学して、一年間マルクス経済学の原論の講義を、割と熱心に聞いた。永山武夫という労働経済が専門の先生で、素朴に製本した自分の講義ノートをテキストに使い、ひなびた感じの授業がよ…

『初心者のための天台望遠鏡の作り方 屈折篇』 誠文堂新光社 1967

子どもの時の懐かしい蔵書シリーズ。ブルーの地味な表紙の薄い本と、再会を果たせて感無量だ。 1940年生まれのエコノミスト野口悠紀雄さんの本に、子どもの時、天体望遠鏡を自作したことが書いてある。おそらく、1950年代には、レンズ等を購入して、あとは自…

分類法について

フーコー(1926-1984)は、『言葉と物』(1966)の冒頭で、中国のある百科事典の奇天烈な動物の分類法を紹介している。その分類では、動物を14のカテゴリーに分けるが、それは、「皇帝に属するもの」「芳香を放つもの」から始まり、「今しがた壺をこわし…

白い象の恐怖

今の人は、花祭りといっても、何のことかわからないだろう。キリスト教で言えばクリスマス、仏教のお釈迦様の誕生日を祝うお祭りである。しかし、僕も、子どもの頃読んだ本でそんな知識を蓄えただけで、実際に花祭りというものを見たことはなかった。 そこは…

いつも外を見とんしゃった

妻は博多の呉服町という下町の生まれだ。かつてミシン屋をしていた実家はもう取り壊されてしまったが、近所には間口の狭い商家が立て込み、大小のお寺が並んでいる。そんな町に育ったせいか、博多弁のなまりは強いほうだと思う。おかげで僕も影響されて、家…

『経済学の宇宙』 岩井克人 2015

野口悠紀雄の自分史を絡めた経済の本がとても面白かったものだから、似たような本を読もうと思って本棚から取り出した本。 経済学者にして思想家である岩井克人(1947-)のインタビューをもとにした本だが、相当の加筆修正とていねいな編集が施されて500頁…

棟梁の仕事ぶり

玉乃井DIY講座で、今日は、ホコラの建具(扉)の制作を手伝う。もっとも、細かい作業になれば、僕などいっそう戦力にはならない。指示通りにほぞやほぞ穴の墨入れ(といっても鉛筆書きだが)をしたり、丸鋸で切り込みを入れてもらった後に、カンナで余分の材…

次男と仏像

東京から来た姉を妻があちこち案内したとき、国立博物館に寄った。そこで京都のお寺の寺宝を展示した特別展をやっていて、せっかくだからざっと見ておこうと入ったそうだ。すると、意外なことに、次男が一体一体の仏像をじっくりと観て動かない。キャプショ…

メジロのさえずり

松林の中を歩いていたら、小鳥が飛んできて、松の梢のてっぺんにとまって、さえずり始める。葉の落ちた枝の先だから、よく目立つ。こんな振る舞いは、ホオジロかカワラヒワのはずなのだが、ずっと小さい。 メジロだ。しかし、メジロは、集団でやってきて、木…

ふるさとへ廻る六部は

伯父伯母の呼称というのは面白い。僕の両親とも戦前の人だったから、兄弟が多かった。年長の兄弟に対しては、赤坂のおばさん、誉田のおじさん、というように地名をつけて呼ぶ。年少の兄弟には、ふみ子おばさん、やすおおじさん、というように名前で呼んでい…

村の賢者がインスタをはじめる

大井の古民家カフェに村の賢者原田さんを訪ねると、表情が明るい。話を聞くと、自分の作品をインスタに上げるようになって、見てくれる人の数が増えているのだという。僕が勉強部屋代わりに使っている近所のファミレスがあって、以前から食事をする原田さん…

『戦後経済史』 野口悠紀雄 2019

整理法や勉強法についてのベストセラーを書いた、大蔵省出身のスマートなエリート経済学者。著者の野口悠紀雄(1940~)については、そんなイメージしか持っていなかった。戦後史のおさらいのつもりで手に取ったのだが、抜群に面白いうえに、襟を正して読ま…

『タイで考える』 今村仁司 1993

5月5日の子どもの日は、僕には忘れがたい日にちだ。恩師の今村仁司先生が亡くなった日だし、親戚で一番お世話になった叔父の命日でもある。一昨年、長男が家を出て独立した記念日でもある。特に今年は、今村先生の13回忌に当たるのだ。 ここ数年、子どもの…

自分にとって特別な本

読書会で、珍しく自由回答の課題が出た。以下はその質問の要旨と回答。 ・特別な本 岡庭昇『萩原朔太郎』1981年読:この本で批評の世界を知る。 中川武『建築様式の歴史と表現』1987年読:この本で生活の迷路を抜ける。 永井均『〈子ども〉のための哲学』199…

令和最初の日にパンクする

令和初日の夜にスーパーに買い物にでかける。牛乳に卵、パンやお総菜を買って戻る途中、家族にほか弁を買って帰ろうと思いついたのがいけなかった。いや本当にいけなかったのは、たまたま駐車場でこちら向きに停めた車がライトをつけたままのタイミングだっ…

イノシシと野ウサギ

かつては、人間たちのくらしの身近な隣人だった動物たち。都会暮らしとは言わないまでも、ふつうに街で暮らしていると、彼らに出会う機会はまったくなくなっている。昔話や絵本でおなじみの動物でも、実際の姿には驚くことが多い。 たとえばイノシシ。僕は昔…

平成最後の「なんもかんもたいへん」を聞く

平成最後の日、東京から来ている姉を門司港に案内する途中で、黄金市場に寄る。昭和の古風な市場を見てもらうためだが、実際は、自分が「なんもかんもたいへん」のおじさんの口上を聞きたかったのだ。 祝日で活気のある市場の狭い路地で、おじさんの言葉が響…

昭和最後の日

1989年1月7日。当時、僕は東京八王子で塾講師をしていた。前年から昭和天皇の病状の報道が続いていたが、早朝に「天皇崩御」の報道があった。通勤の道を歩きながら、いつもは目をあわせることもない通行人たちの表情が気になり、その一人一人とほとんど目く…

平成天皇の顔

僕の父親は戦中派で、戦争で苦労した人間だから、天皇と天皇制と神道とを忌み嫌っていた。天皇がテレビに映るとチャンネルを変えていたし、実家では初詣の習慣すらなかった。僕はそんな空気の中で育ったし、大学に入ってからも、学問の世界や論壇では、まだ…

忌野清志郎の顔

衛星放送を見ていたら、忌野清志郎(1951-2009)の特集をやっていた。93年くらいに制作された番組で、インタビューやライブ映像などを取りまぜている。国立のたまらん坂の上で「多摩蘭坂」を歌い、国立駅北口で「雨上がりの夜空に」を熱唱する。 まだ少しく…

ハチの葬式

約束の午後1時に、もち山のクロスミ様の前の道を抜けて、山向こうの葬祭場に家族でむかう。ハチが悪さをしたとき、「もち山にすててイノシシに食べさせちゃうぞ」と妻が叱っていたことを思い出す。 葬祭場は、納骨堂や共同墓地を兼ねているので、休日のため…

ハチのお通夜

昨年のクリスマスの前に、我が家に迷い込んできた子猫のハチが死んだ。てんかんの発作を持っていたけれども、月に一度、何分間かで収まる程度だったので、獣医と相談して、ゆっくり投薬治療をしていけばいいと思っていた。 今回の発作は、一度収まったあとに…

山猫と紳士とどちらが愚かか?

昔、小学校の授業の指導案で、宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』を読ませるときに、「山猫と紳士とどちらが愚かか?」という問いをもとに議論させるというものを見て、びっくりしたことがある。山猫にだまされて裸になり食べられそうになる紳士たちは確か…

テレビ局のプロデューサーの人ですか?

近くの街で仕事で会議に出るので、その前に黄金市場に寄ることを思い立つ。なんもかんもたいへん!のおじさんに会うためだ。JRからモノレールを乗り継いで最寄り駅へ。思ったよりスムーズに市場に着く。 モノレールは、長男が4年間大学への通学で使っていた…