大井川通信

大井川あたりの事ども

大井川歩き

村里の恐怖

ムツ子さんは、大井村で庄屋を務めた旧家にお嫁に来た。屋敷の裏手には、大きな銀杏の木があり、根元に扁平な大きな石が立ててある。イシボトケ様と呼ばれ、先祖の山伏をまつっているという。冬になると、銀杏はすっかり黄色い葉を落とし、それが屋敷の前の…

里山の恐怖

『荒神』には実際の山村のリアリティや怖さが描かれていないと書いた。大井川近辺での体験から、それを拾い出してみる。 もう3年以上前のことだ。半世紀前に出版された地元の郷土史家の聞き書きで、大井村の里山にヒラトモ様という神様が祀られていることを…

荒神 宮部みゆき 2014

今年になって文庫化。恐ろしい山の神がもたらす災厄を江戸時代の山村を舞台に描いていると聞いて、ふだん手にしない人気作家の長編を読んでみた。おそらく娯楽小説としてよくできていて、とくに結末に向けてどんどん物語にひきこまれた。ただ、読書の関心が…

佐藤武夫と幻の塔

佐藤武夫(1899-1972)は、母校早稲田大学の大隈講堂(1927)の設計で建築家の仕事を開始する。キャンパスの外に少し斜めに構えて建つ講堂と、その左端にそびえる大振りな時計塔。その非対称で明快な姿を僕は気に入っていた。地元の県立美術館も彼の設計で…

ごん狐 新美南吉 1932

初めに読んだのは教科書だと思うが、久しぶりに手に取った。今でも小学校の教科書の定番である。国語の授業では、主人公の心理を読み取ったり、物語の形式を意識したりすることが中心のようだが、ここでは、「大井川歩き」あるいは「なぞり術」的な読みを試…

ため池のカイツブリ(その3)

ため池の底に一羽取り残されたカイツブリのヒナは、翌日もまだ水たまりにぽつんと浮かんでいた。浅瀬に首を伸ばして、くちばしで何かをすくい取るようにして泳いでいる。双眼鏡でのぞくと、オタマジャクシがうようよいる。元気そうなので、ひとまず安心した…

なぞり術/聞きなぞり 石野由香里 2017

知人の住む旧旅館で開催された「聞きなぞり」の実演に参加してみた。 座敷に座った若い女性が、しずかに老女になったかのように体験を語り始める。これは一人芝居なのではなく、彼女が実在の語り手の話を聞きこみ、それをそのまま再現しているのだという。パ…

元号ビンゴ(その3)

近所の小さな公園の隅に、古い石の祠があるのは前から気づいていた。鍵付きの金網のフェンスで囲われて、大切にされてはいるのだろうが、味気ない気もする。元号ビンゴの精神で目を凝らすと、ボロボロの石壁に文久三年の文字が浮かび上がる。新しい元号では…

ため池のカイツブリ(その2)

久しぶりの大雨で、水抜きされたため池の底の水たまりも、倍くらいの大きさに広がって安心した。しかし二日もすると、もとの大きさに戻ってしまう。さらには、小さいながらも楽しい我が家というふうに水たまりの真ん中に浮かんで、エサ取りの潜水をくりかえ…

ため池のカイツブリ

数日前からため池の水がみるみる少なくなり、もう真ん中付近に大きな水たまりが残っているだけになった。カイツブリの夫婦の姿は見えなくなったが、今年生まれたヒナ4羽は、日に日に小さくなる水面にポツンと取り残されている。カイツブリは成鳥でも飛ぶの…

原っぱ

東京郊外の僕の実家の隣には、雑木林の空き地があった。そこを原っぱと呼んで、生活ゴミを燃やしたり、キャチボールや木登りや栗拾いをしたり庭がわりに使っていた。 付近の空き地は瞬く間に住宅に埋め尽くされたが、原っぱだけは、家々の隙間に何十年も残り…

元号ビンゴ(その2)

新たな目標ができたので、出勤前の短い時間で、近隣を回る。オオイ区の村社では、壊れかけた常夜燈に「寛政」の年号を見つけ、観音堂脇の石塔には「明和」の文字が。これは以前のコミュニティだよりの記事で、「明治」と読み間違えて紹介されていたもの。早…

江戸の元号

江戸時代の元号は36個ある。 以前から順番に暗記しようと思っていて、近ごろようやく覚え始めた。それと同時に、これも前から構想していた、大井川歩きの中で江戸の元号のコンプリートを目指す、という新しい遊びを始めることにした。いわば、路傍の元号を…

オオスカシバ

数日前、自宅の駐車場で、オオスカシバの姿を見た。すぐに隣家の庭に消えてしまったが、透明な羽に黄色の太い胴体が目に残った。高速で羽ばたいてホバリング(空中停止)もできるから、蜂のようにみえるがスズメ蛾の仲間だ。 実家の庭には、クチナシの垣根が…

オニヤンマ

七月になってから猛暑が続き、早朝でないととても散歩などできなくなった。朝6時過ぎに家を出て、クロスミ様の鎮座する里山をこえて、モチヤマの集落に入る。 小川沿いの田舎道で、いきなり大柄な誰かに出くわしたと思ったら、オニヤンマだった。 八木重吉…

大井炭鉱

家から歩いて10分ばかりの里山の中に、小規模な炭鉱跡があることは、10年近く以前の聞き取りで知っていた。谷に沿って山に入ると、今は小さな畑地になっているが、周囲にはボタが落ちていたり、赤水がたまっていたりして、かろうじてその痕跡をうかがう…

ミロク様

ヒラトモ様の鎮座する里山の中腹で、ミロク様の石の祠にお参りして、お酒を供える。 先代の住職は、年に一度お経をあげていたそうだから、おそらく仏教の弥勒菩薩と関係があって、だから村の鎮守に集められることもなく、山中に取り残されたのだろう。 祠に…

電柱のノスリ

バス停脇の電柱の上に、一見、電線の設備の一部みたいに白っぽい大きな鳥がじっと止まっている。尾が短くダルマのように丸い鷹、ノスリだ。以前、ダムの上空で凧のようにホバリングしたり、森の樹上に止まる姿は見ていたが、人家の近くは初めてだ。人や車を…

青い鳥三羽

シモノハラ池のふちで、ルリビタキを見つける。頭も羽もちょっとくすんだような青だが、脇のオレンジ色と、白い眉がかわいい。 小川の水面ギリギリをカワセミが真っ直ぐに飛ぶ。背中の縦の青いラインを日に輝かせて。 遠くの民家の屋根で、イソヒヨドリが庭…

揚げ雲雀

あぜ道ではヒバリの高鳴き。あちこち梅もほころぶ。 そんな生命の胎動を報告すると、Hさんは顔をしかめた。 また、働かなくちゃいけない季節がやってきた、と。

ヒラトモ様

山上のヒラトモ様にお参りする。 平家物語の文庫本を開き、平知盛の最期の一節を、供養のために朗読した。 イノシシ猟の銃声が近づくのを聞きながら。

クロスミ様

1年以上ぶりに、クロスミ様にお参りする。初詣になるので、梅酒の小瓶をおそなえして。 林道の途中で、初めてウソに出会った。黒い頭に鮮やかな朱色のマフラーを巻いたような、天神様のあの小鳥。 アトリの冬羽の雄や、アオジ、シロハラにも会えて、里山に…