大井川通信

大井川あたりの事ども

大井川歩き

榜示(ぼうじ)とクスの木

ようやく涼しい日が続くようになってきた。今年は、7月から連日の猛暑が続き、8月のお盆がすぎても、暑さが手をゆるめなかった。35度超が当たり前だった。足首を痛めるというアクシデントも加わり、しばらく歩いていなかったのだが、今朝久しぶりに、住…

ムジナが落とした物語がひょっこり別所に届けられる(貉の生態研究⑥)

【物語の誤配/交配】 大井村の力丸家の由来を描いた絵本「大井始まった山伏」は、その唯一の伝承者睦子さんの病床に届けることができた。枕元で絵本を読み上げると、苦しい息の下で、物語の展開の創作に喜んでいただける。 平知様の物語は、紙芝居となって…

ムジナの霊が現れて今いるムジナに舞いを教える(貉の生態研究⑤)

【身振りの模倣】 70年以上前、大井の村人がおこなったという戦勝祈願にならって、古式にのっとり(この時ばかりは)自転車に乗って、和歌神社、摩利支天、宮地嶽神社、金毘羅様、田島様と「五社参り」を敢行する。 かつての木剣の代わりに「木の根」が献納…

ムジナが物語をくわえて方々に走り出す(貉の生態研究④)

【虚構の介入】 かつて北九州枝光での演劇ワークショップで、演出家の多田淳之介さんは、参加者に地元の事物をネタに寸劇を作らせて、それを実際に上演することで、鮮やかに「虚構」を地域の歴史につなげてみせた。自ら何年も枝光の盆踊りに飛入り参加し続け…

ムジナがうろつく土地が意味にみちてくる(貉の生態研究③)

【フィールドの情報化】 寺社やホコラ、ため池、アパートなど土地のさまざまなモノは、それぞれの歴史をもつ。それぞれの歴史は、それに立ち会う生き証人をもつ。あるいは多少の記録をもつ。町角やあぜ道でよろよろと歩きながら登場するお年寄りたちは、個人…

夜ごと少女のようにムジナが手記をしたためる(貉の生態研究②)

【妄想による通信】 まずは歩きながら観察したものや体験した出来事などを、大井川通信という短いレポートにまとめて、遠方の知人あてにせっせと郵送することにした。すると、土地にはりつくように歩いている自分の姿を、いくらかでも客観視できるようになっ…

ムジナが町と山野をうろつき回る(貉の生態研究①)

【歩行の開始】 地元で歩き始めたばかりのとき、地域を一方的に観察する側に立つのはおかしい、という批判を受けた。それは観察対象からの収奪につながり、その土地に生きる人たちに受け入れられることはないだろうと。 その時は、自宅から歩いて行って帰る…

十力の謎

今ではほとんど使われなくなってしまった村の小字の地名には、不思議なものが多い。いくら眺めても、口でいってみても、よくわからない。地元の小字名で、唯一自分で解明できたと思えるのが、十力(じゅうりき)だ。 大井の中でも古くからある集落で、江戸時…

再び路上へ

台風のあと、梅雨前線による大雨が降り、朝晩は肌寒さを感じるような日が続いた。今朝は久しぶりに晴れ上がり、気温も上がるという予報だったので、日差しが強くなる前に家を出た。この夏初めてのクマゼミの声が聞こえる。 よく、ストリートだとか、路上だと…

冬の麦の根は地獄の底まで伸びている

大井川歩きなどと称して農耕地を歩くことも多いが、実は農業については何も知らない。そもそも自然の中でも、鳥や虫に比べて、植物の知識はまったく乏しいのだ。子どもの頃、小学館の学習図鑑でいろいろな知識を仕入れたけれども、植物の図鑑だけはなんとな…

石炭ケーブルカー

「よいことを聞かれた」と、ハツヨさんの口ぶりがいっそう元気になる。僕がふと思いついて、石炭を運ぶケーブルカーのことを知らないか尋ねてみたときだ。 隣村からの往還(道)の上を、ケーブルカーが通っていて、その車輪がぐるぐる回っていたそうだ。石炭…

盆うた

日当たりのいい庭で、みんなで話を聞いていると、103歳のハツヨさんは突然、思い出したという風に手をたたいて、ゆっくりと盆おどりの歌をうたいだす。 ハツヨさんは、村では歌姫と呼ばれて、盆踊りの歌い手としてかかせなかったそうだ。他の娘さんたちで…

大井川歩きのこと

お年寄りは時間と空間の見当を失いがちになる、という村瀬孝生さんの言葉を聞いてから、ずっとそのことが気になっている。 僕が、大井川歩きのルールを決めたのは、4年前のことだ。自宅から、歩いて帰ってくることのできる範囲を、特別な自分のフィールドと…

老人ホーム「ひさの」を訪ねる

大井炭鉱坑口にお参りしたあと、下流の隣村まで足を伸ばす。ゆったりとして明るい集落の旧家で、住宅型有料老人ホーム「ひさの」をしている田中さんを訪ねる。田中さんは、原田さんのお店で以前から顔見知りだけれども、ご自宅に伺うのは初めてだ。 田中さん…

大井炭鉱跡再訪

ようやく休日の晴天と体調がかみあって、双眼鏡を首にかけ、竹の杖をついて大井川に降りていく。氏神様と田んぼの真中の水神様に、しばらく足が遠のいていたことを詫びる。水神様の上空でホバリングして、ヒバリがせわしなく高鳴きをしている。そういえば、…

疎開の意味

戦争中の生活を描いた『夏の花』の連作を読むと、「疎開」にもいろいろな種類があることがわかる。そもそも、疎(まば)らに開く、だから、原義は軍事作戦用語で、集団行動している兵を散らして攻撃目標となるのを避けることのようだ。 主人公は、千葉から実…

大井川歩きで山城に登る

穏やかな日差しに誘われて、久しぶりに大井川歩き。天候やら用事やらで地元を歩くのはだいぶ間があいてしまった。歩くとまちがいなく楽しくいろいろ発見もあるので、これからはできるだけ毎週歩こうと、あらためて思った。 ダムで見慣れぬ大きな水鳥をみつけ…

『稼ぐまちが地方を変える』 木下斉 2015

昨年から、地元のまちづくり関係のワークショップや話し合いの場に出るようにしている。そこで驚いたのが、若い不動産オーナーが、コミュニティやまちづくりの構想と実際の経営とを両立させていることだった。あるいは、古い空き家の再生や活用を、新たなマ…

給水塔の話

年末、海に近い町の小さな本屋さんを夫婦で訪ねた。古い時計店を改装したお店で、前の半分はカフェとなっている。妻が盛んにカフェの方の店主に話しかけて、コーヒーの注文をした。あとで聞くと、イケメンだと興奮している。薬を変えて体調が戻り、そんな元…

ある訃報

石牟礼道子さんが亡くなった。水俣病を告発し支援し続けた作家として、地元の新聞では一面トップと社会面で特大の扱いをしている。僕は『苦海浄土』すら読んでいないし、高群逸子を扱ったシンポジウムで、上野千鶴子らと登壇している姿を見たことがあるくら…

「冬の盆」から6年

その演劇ワークショップに申し込んだのは、ちょっとした気まぐれだった。しかし偶然が重なり、2年越しの参加となって、実際の小劇場の舞台に立つことになる。それがちょうど6年前。 公立劇場の先進的な取組に、多田淳之介という優れた演出家が力をふるった…

霜柱とぬかるみ

東京都心で、48年ぶりに零下4度を記録したそうで、霜柱の写真が新聞に出ていた。多摩地区の府中市では、なんと零下8度だったそうだ。地球温暖化やヒートアイランド現象の影響だろうか、夏はかつてよりも熱くなり、冬は以前ほど寒くなくなった体感がある…

ヒラトモ様のご褒美

少し遅くなったけれども、天気がいいので、ヒラトモ様の里山に初詣に行く。山道は、両側から竹が倒れていて、少し歩きづらくなっている。道が途切れ、きつい山の斜面を登っているとき、ひらひら歩く襟巻のようなイタチとすれちがう。 ヒラトモ様の石のホコラ…

ランドマークとしての神々

国立の実家に帰ると、谷保にでかける。かつて段丘下に田んぼが広がって多摩川まで続いていたのだが、今は住宅街に姿を変えて面影がない。しかし段丘に沿った谷保天満宮の境内だけは、子どもの頃遊んだ姿とほとんど変わらない。 国立は大正時代に街の開発とと…

フリースペースとしての神々

近隣にある集落が、里山の山上にクロスミ様という神様をまつっている。集落の人口が減りだしたときに、住民たちがクロスミ様をおろそかにしたためではないかと考えて、ホコラを囲う小堂をつくり、それだけでなく、由来を書いた説明板と、街道脇にクロスミ様…

年末にニュータウンの境界を歩く

郊外のリノベーションの連続ワークショップで、自分の経験から、開発団地の境界付近が面白いという発言を何回かした。年末時間が空いたので、当該ニュータウンの境界線を実際に歩いてみることにする。大晦日という一年の境界の日の、黄昏時という昼夜の境界…

木で作る話

ずいぶん久しぶりに筑豊山中の木工の展示会に顔を出した。夫婦と帰省中の長男と3人、正月のドライブを兼ねて。工房「杜の舟」の主人内野筑豊さんは、絵や文もたしなむ才人で、常に新たな造形を生み出す作家性と、ていねいに作品を作りこむ職人気質を兼ね備…

木を倒す話

正月も特別な休みのない次男を、暗い中、駅まで送る。ついでに早朝の大社に初詣に寄った。駐車場は早くも車がごった返しているが、列をつくるほどではない。例年よりなぜか夜店が少なく、北海道から来る名物女将の「東京ケーキ」が店を出していないのが気に…

プライバシーの境界線

日本全国もそうなのだろうが、僕の住む地域はとんでもない冷え込みである。真冬の一番寒い時のような気候が、12月に入って続いている。例年12月は、けっこう暖かい日が続いていたと思う。そんなわけで大井川歩きの看板が泣くような休日を過ごしているの…

キッザニアのマーケティングに学ぶ

キッザニアの立ち上げから関わってきたマーケッターの関口陽介さんの話を聞く機会があった。キッザニアは、主に小学生を対象にして、リアルな職業体験を提供する教育娯楽施設で、今大変な人気だそうだ。ライバルの多い子供向けの施設の中で、独自の市場を獲…