大井川通信

大井川あたりの事ども

思索ノート

介護と演劇

もう一か月以上前になるが、介護をテーマにした演劇ワークショップに参加した。正式名称は「老いと介護 演劇の力」で、講師は俳優にして介護福祉士の菅原直樹さんだった。座学が一時間で、そのあと三時間のワークショップがあった。参加者は20名ほどで、その…

諦めと手遊び

何度か触れてきたけれども、僕の実家は、伯父の家の敷地の奥にあって、家の大きさだけでなく、その暮らしぶりにも経済的な格差があった。それだけでなく、自分たちの立場がやや不安定であることにも、小さい時からうすうす気づいていたのだと思う。 似たもの…

大学に入学した年

安部文範さんと折尾のブックバーに行く。 マスターが、安部さんと同じ大学の文学部の後輩とわかって、大学の入学年が話題になった。安部さんは、1969年の入学で、学生運動のただ中に足を踏み入れた世代だ。当時は、一年、二年の入学時期の差で、入学後の運命…

僕たちの「リロケーションギャップ」

僕の姉は、20代で実家を出てから、30年以上毎週のように実家に通い続けた。特に両親が老いて病身になってからは、彼らの支えになっていたし、二年前に母親が家を出たあとも、毎週末、家の管理をしに出向いていた。 母親が亡くなって、空き家になった自宅…

僕が『生まれる』ときには

生と死は、対の言葉としてよく使われる。でも、生の反対語は、はたして死なのだろうか。いやそうじゃない。生の反対は、「生まれなかったこと」ではないのか。 ある哲学者がそんなことを言っていた。哲学者の言葉というのはたいてい、当たり前にわかっている…

『歩く』は『食べる』に匹敵するほど『生きること』に通じている

村瀬孝生さんの『ぼけてもいいよ』からの言葉。 93歳を迎えたトメさんは、実際は数十キロも離れたところにある自宅に帰ろうとして、不自由な身体をおして出発する。わずかの距離を30分かけて歩いて、力尽きてすわりこむ。村瀬さんは、そんな彼女の「歩く」に…

猫と私と、生まれなかった兄と

休日の昼間に、通信教育で四教科の試験を受けた。ネットで該当のページを開いて待機していると、指定の時間に問題文が見られるようになり、50分で回答を作成する。便利な世の中になったが、本当に久しぶりの試験で、だいぶ消耗してしまった。 と同時に、頭…

ある講演会にて

出口治明氏(1948-)の講演会を聞く。ビジネスマン出身の読書家で現大学総長という肩書は、ちょっと敬遠したいタイプではあるが、話は明快で面白かった。いかにも実社会で練れた人柄にも好感を持てた。 この30年間の日本の衰退は、新しい産業を起こすことが…

ごちゃごちゃになる

新しい猫の九太郎が我が家にやってきてしばらくは、九ちゃんのことを、前の猫の名前八ちゃんと呼んでいることが多かった。そのうち、九ちゃんと呼んだり、八ちゃんと呼んだり、ごちゃごちゃになってしまう。さすがに今では、九ちゃんに統一されてきたようだ…

『急に具合が悪くなる』 宮野真生子・磯野真穂 2019

ガンで死に直面した哲学者と友人の文化人類学者との往復書簡。読書会の課題図書として読んだのだが、僕には、とても読み進めるのが難しい本だった。 細かい違和感は多くあるのだが、その大本を探っていくと、次の二点に突き当たる。 一点目は、礒野さんの書…

触るということ

知り合いの老人介護施設を訪ねたりしたとき、少しドキッとしてしまうのは、職員さんとお年寄りが、ごく自然に身体をふれあっているのを見たときだ。ちょっと見てはいけないようなものを見てしまったような気さえする。 これはおそらく、人間同士がふれあうこ…

声について

以前、授業名人と呼ばれる小学校の先生の授業を見学したことがあるのだが、そこで先生が、様々なキャラクターを使い分けて授業をしている姿に驚いた。こわもてのキャラ。威厳のあるキャラ。面白いキャラ。内気なキャラ。そうした変化を演出しているのは、身…

(自分の子どもに)あなたはどなたですか?

ぼけて、自分の子どものことがわからなくなったお年寄りの話を聞くことがある。僕の妻の母親も、病院に入ったとき、面会にいった妻のことがわからなくなったときがあって、妻もショックを受けていた。 人間にとって、一番身近で大切なのは親子関係だろう。そ…