大井川通信

大井川あたりの事ども

恐怖と事件

ため池の子どもたち

ひろちゃんの娘さんから聞いた話。 子どもの頃、おてんばだった娘さんはマスマル池に入って泳いだそうだ。池の土手では友だちや弟が見守っている。もう足がつかないところまできたとき、子どもたちが騒ぎだした。娘さんの先を泳いでいたいとこの女の子が、お…

地蔵のある家

大井の兄弟をめぐる悲劇も、それを知る人がいなくなれば、忘れられていくだろう。やぶの中の地蔵だけが、その痕跡となるだろうが、その意味を知ろうとする人は、これからの時代にはあらわれそうにない。 かつては、そうした記憶はもっとながく受け渡されてい…

飲み仲間の家

兄弟のいさかいによる悲劇は、おそらく四、五十年前の話だろう。家屋も取り払われて、集落の記憶の中で日付も輪郭もあいまいになっているが、かえって濃密なリアリティが感じられる。これが10年前の事件となると様子は別だ。 大井で、ある男の自宅で3人が酒…

兄弟の家

大井で以前にあったこと。 ある家に住む兄弟同士が、何かでいさかいを起こし、一人が一人を鎌で切りつけたのだという。血だらけになって倒れた兄弟を見てようやく我に返った男は、兄弟を殺してしまったと思い、近くの木で首を吊ったそうだ。切られた方の兄弟…

年賀状がこわい

いつの頃からか、年賀状が恐ろしくなった。誰に出すべきなのか、何を書くべきなのかがよくわからない。いや、考えればわかる程度のことだが、それを考えるのがおっくうだ。 パソコンで作成するようになってからは、作り出したら一晩で出来てしまうほど手軽に…

森で招く赤い人影の恐怖

毎日、通勤の車で森の中の道を走っている。道の両側の草が刈られたので、森の中が見とおせるようになった。暗い森では、雑草も茂らないのだ。 12月も半ばを過ぎて、森の中のあちこちに赤い人影のようなものが立ちすくんでいるのに気づいた。暗い森の中で、…

小石川家族殺傷事件(事件の現場8)

今から10年前の2008年に、東京小石川の印刷所で、凄惨な事件が起こった。社長の男が、経営の行き詰まりから、創業者である父親と母親、自分の妻を殺し、現場を目撃して逃げた長女以外の二人の子どもに重症を負わせたという無理心中事件である。本人は自殺を…

三億円事件から50年(事件の現場7)

三億円事件発生から、今日でちょうど50年だそうだ。 僕はずっと以前から、事件現場に足を向ける趣味があって、オウム事件の時は、上九一色村のサティアンを見にいったりした。実は今回の東京出張でも、五つの美術館とともに二つの事件現場をはしごした。何気…

鬼女が刀を振り回して橋を渡る(事件の現場6)

東京深川の富岡八幡宮にお参りした。昨年の12月7日に、現宮司の姉が元宮司である弟に刺殺されるという事件が起きた場所である。犯人である元宮司夫婦が、神社を解任された後5年ほど住んでいたのが、僕と同じ市内の近隣の住宅街だったことは前に書いた。 事…

麻酔の恐怖(続き)

足首の金具をはずす手術のあとは、部分麻酔が十分に効いていたから、前回の時のような激痛は免れた。しかし、その代わり少し不思議な体験をした。 手術した右足は、ふくらはぎから足首まで包帯におおわれて、足指の付け根くらいから上だけが露出している。そ…

麻酔の恐怖(その1)

以前に足首の骨を折ったときに、全身麻酔の手術を受けたことがある。移動用のベッドに載せられ手術室に入っていくとき、仰向けに見上げる部屋の天井や医師たちの様子が、映画のシーンみたいで既視感があった。人生の最期に観る景色は、こんなものかもしれな…

新幹線の鼻づら

自分が漠然と感じていながら、とりたてて言葉にしていなかったことを、他の人から指摘されて感心する、ということがたまにある。ある会合で、怖いモノ、の話がでたときに、新幹線の先頭部分(正式にはノーズというのだろうか)が怖い、という若い女性がいた。…

木の穴の恐怖

ヤマガラが、木の幹に出来た穴に何度も出入りしているのを見てから、林を歩いていても、木の穴がむしょうに気になりだした。上を向いた木の穴には、水がたまっていることがある。ヤマガラは、そこで水浴びをしていたのだ。 その同じ穴の中に、今度は、スズメ…

オウム教祖、死刑執行

麻原彰晃らオウム教団幹部の死刑が執行された。早朝から記録的な大雨となり、通勤途上、田んぼのイネもあぜ道も水没して湖面のように広がっていたり、濁流が川岸からあふれそうになったりするのを見て、不安な胸騒ぎのする朝だった。 今まで死刑囚について、…

『ハードカバー 黒衣の使者』 ティボー・タカクス 1988

若いころ、ホラー映画のビデオばかり見ている時期があった。現実逃避の時間つぶしだったような気がするが、なんとなく忘れがたい作品もある。家族にこの作品をリクエストされたので、埃をかぶったVHSのテープと再生機を取り出してきて、久しぶりに観た。 主…

化かされた話(森の恐怖)

森の中に通じる小道の入り口に、遠目には、白と黒に色分けされた紙袋のようなものが置かれている。周りで鳥が騒いでいる。あれは何だろう。 近づくにつれ、紙袋ではなく、こちら向きで座る白黒の子猫だとわかった。この辺で見たことのないかわいい猫だ。鳴き…

地下鉄サリン事件23年(事件の現場5)

1995年は、日本社会にとって大きな転換点となった年だといわれているが、僕にはそれに個人的な転機が重なり忘れがたい年になった。 1月に阪神大震災が起こり、戦後の平和な社会の中で、大都市が破壊される姿を初めて目の当たりにする。世間がまだ騒然と…

クルマの恐怖

地方都市で、転勤の多い仕事なので、実際に車でしか通勤できない職場に通うことが多い。中央分離帯なんてもののない狭い道を高速で走ると、トラックや自家用車が次々にすれ違っていく。時々、そのどれか一台がわずかにハンドル操作を誤るだけで、正面衝突の…

池のほとりで(事件の現場4)

たまに散歩したり、駐車場でつかったりする小さな公園で、酔った大学生が池に落ちて亡くなったという。先日も学生が罰ゲームか何かで防波堤から海に飛び込んで命を落としたという報道を目にしたが、こちらはよく整備された浅い池だ。大学4年生というから、…

『富江』シリーズ 伊藤潤二 1987-2000

ホラー漫画といえば、長い間楳図かずお(1936~)以外考えられなかったが、近ごろ伊藤潤二(1963~)の良さを知るようになった。『富江』は、以前に映画をビデオで何本か見て印象に残っていたが、原作を初めて読んでみた。伊藤が楳図かずお賞に応募してデビ…

博多一家四人殺害事件(事件の現場3)

大井川周辺の聞き取りでも、何らかの事件や事故に関連して、その供養のためにまつられた石仏やホコラの話が何件もでてくる。旅の人間が行き倒れになった場所に不動さんをまつったとか、殺人のたたりから子孫を守るための地蔵とか、雷に打たれて人が亡くなっ…

富岡八幡宮宮司殺人事件(事件の現場2)

昨年末に、東京の有名神社で、姉の宮司を、元宮司の弟夫婦が待ち伏せして日本刀で刺殺し、自害するという凄惨な事件が世間を騒がした。 この事件は、元宮司のかつての豪遊等の報道で、由緒ある神社の経営の乱脈ぶりを明らかにした。しょせん世俗まみれなのか…

北九州監禁殺人事件(事件の現場1)

大学を出て、新卒で就職した会社で、北九州に赴任した。前任者の借りていたアパートがモノレールの駅の近くにあって、そこに入居した。周囲はお寺が多い湿っぽい路地で、少し歩くとタバコ屋があり、小さな雑居ビルのようなマンションの一階に喫茶店もあった…

屋根の上の恐怖

先日来た台風で、この地域では久しぶりに強風が吹いた。そのあと数日して、何気なく見上げると家のテレビアンテナが倒れて、ワイヤーでかろうじて屋根の斜面にぶら下がっている。やれやれ。大手の電気店に聞くと、アンテナ交換になれば4万円くらいかかると…

庭の恐怖

実家の庭の隅に小さな小屋があって、その裏に回ると、隣の敷地の板塀との狭いすき間から、道の脇に立つ木製の電柱を見上げることができた。電柱の上部には、変圧器みたいなものがついていて、丸形のガイシがついていた。幼い僕には、それがバケモノの丸い目…

家庭の恐怖

妻は、実の兄との関係があまりよくなかった。それで10年ばかり会っていなかったのだが、先日、突然の訃報があった。通夜と葬儀に出て、いざ出棺の時に、手を合わせて「では、さようなら。来世は私の前に現れないでください」とお祈りして、お別れしたそうだ…

住宅街の恐怖

今の街に引っ越して、まだ間もない時だったと思う。住宅の数も少なくて、今より周辺もだいぶさみしかった。夜中、子どもを残して夫婦で車を出した。翌日の用事にそなえて、買い物とガソリンの給油に行ったと記憶している。当時3歳の長男は寝付いていたし、…

神社の恐怖

夕暮れ間近の神社の鳥居の前に、十人ほどの人だかりがある。地元のお祭りか何かなのだろう、と脇によけて鳥居をくぐると、石段がはるか上に続くのが見えた。駅や商店街からも近い街道沿いだが、この神社の山だけは開発を免れているようだ。拝殿にたどり着く…

里山の恐怖(その2)

ヒラトモ様のことは、村のお年寄りからの聞き取りと、幕末以来の文献で、薄皮をはぐようにわかってきた。それとともに恐怖の気持ちも薄らいできた。 おそらく事実はこうだ。初めは、時代のわからない武人の墓が山頂にあるだけだった。幕末に村人が盗掘のタタ…

村里の恐怖

ムツ子さんは、大井村で庄屋を務めた旧家にお嫁に来た。屋敷の裏手には、大きな銀杏の木があり、根元に扁平な大きな石が立ててある。イシボトケ様と呼ばれ、先祖の山伏をまつっているという。冬になると、銀杏はすっかり黄色い葉を落とし、それが屋敷の前の…