大井川通信

大井川あたりの事ども

演劇

演劇人の従兄と話をする

ちょうど小劇場の歴史に関連する本を三冊読んだところで、演劇人の従兄と話をすることができた。にわか勉強のおかげで、相手の話を引き出すくらいのことはできたと思う。 視野が狭く引っ込み思案の僕が、かろうじて芝居を観たり、演劇ワークショップに参加し…

『肉食獣』(柿喰う客)を観る

下北沢のザ・スズナリで劇団「柿喰う客」の芝居を観た。僕にとって柿喰う客は、純粋に芝居を楽しめる数少ない劇団の一つだ。実際に公演を観たのは、5本くらいだと思うが、どれもはずれがなかった。これも代表中屋敷法仁の芝居作りのセンスと力量によるものだ…

『日本の現代演劇』 扇田昭彦 1995

60年代以降の演劇の歴史を振り返るのは、菅孝行の自伝、佐藤信論についで、これで三巡目になる。以前目を通したことのある本だが、背景知識をある程度仕入れたうえで読むと、岩波新書の小著ではあるが、とてもよい本だった。 まず、1940年生まれの著者が、…

『佐藤信と「運動」の演劇』 梅山いつき 2020

菅孝行の自伝を読んだら、数年前購入してあったこの本が読みたくなった。菅孝行と佐藤信は、僕より二回り上のいわば先生世代に当たる。演劇関係者で左翼であるという共通点もある。ちなみに当時左翼であることは学生、知識人のデフォルトだった。 三回り上以…

『カキワリの劇場』 小林賢太郎 2023

一昔前、ツタヤ図書館と揶揄された新しい公共図書館のあり方が話題になった。その走りは武雄市立図書館で、どちらかと言えば図書館関係者からの批判の声が大きかったと思う。僕も旅行の途中で立ち寄ってみたが、図書館としては確かに目新しい空間だと思った…

能を少しだけ観る

職場のビルの一階ロビーで、能楽のミニ公演をするのにたまたま出くわした。演者は3名。三つの舞台のハイライト部分だけを、能面などつけずに演じて、最後の舞台だけ笛や鼓などの楽器が入った。実際の演者以外は「舞台」脇に控えて、独特の掛け声をかけて謡…

舞台版『気づかいルーシー』を観る

先々週と同じく、北九州芸術劇場の中劇場で観劇する。前回の失望が大きく、チケットを買っているものの、今回はさぼろうと思ったほどだった。といっても家でのごろ寝ほど精神にも身体にもよくないことはない。気をとりなおして出かけることにした。 コロナ明…

思わず舞踏に触れる

知り合いから絵の展示と詩の朗読などの集まりに誘われた。読書会仲間が詩を読むから参加したのだが、音楽の演奏と舞踏のパフォーマンスもあって、マイブームの舞踏に予想外の場面で触れることができた。 アパートを改造したアトリエで、10人ばかりが坐ると、…

芝居でいたたまれなくなる

せっかく舞台をみる勢いがついたところなので、今月も劇場にいく。評価の高い若手の演出家の芝居なので、純粋に楽しもうと思って、予備知識なしにリラックスして望んだ。ところが。 はじまってすぐのあたりは、いかにも新しい感覚の舞台だと興味をもつことが…

舞踏を読む

知人の振り付けた舞踏(作品名"gradation" 振付・井野禎子さん/ダンサー・辻奈津子さん)の上演が、参加する読書会の企画として、小さなアトリエで行われた。コンテンポラリーダンスというジャンルは全く歯が立たないことがわかっていたので、せめて生身の…

10年ぶりに東京デスロック『再生』を観る

東京デスロックの『再生』を10年ぶりに観た。10年前も、福岡公演と北九州合同公演と二つの舞台(その時は『再/生』)を体験したが、今回も劇団バージョンと北九州バージョンとの二本を観た。前回の北九州公演はデスロックに地元の役者が加わる形だったが、…

はじめて舞踏を観る

三軒茶屋のシアターコクーンで、舞踏の舞台を観た。演劇ではなくダンスが主体の公演を観るのは初めてだ。予備知識もないし文脈もわからないが、とりあえず印象をメモしてみる。鈴木ユキオプロジェクトの二作品で、前半の一時間弱はほぼ鈴木ユキオ一人のダン…

to R mansion『にんぎょひめ』を観る

to R mansion を観るのは、およそ10年ぶりだ。旧銀行の小さな劇場で、身近にめいっぱい元気で楽しい舞台を観たことを覚えている。小劇場を初めて体験した長男が衝撃を受けていた。 今回の公演のフライヤーでも、「光と闇のステージアート」をうたっていて、…

記号の諸相(昔書いた演劇メモ③)

記号と意味との関係を、記号の様々な有り様という観点で見てみると、以下のような特徴をひろうことができるだろう。 1.身体の連動・リズム 身体は連なって運動したり、不意に変身したりする。 2.言葉の連動・リズム 役者の言葉は連なって運動したり、不…

不一致と定点(昔書いた演劇メモ➁)

前回の理屈を踏まえると、現代演劇のいくつかの特徴、というかうま味のあるポイントをあげることができる。 1.役者と役柄との不一致 同じ役者が複数の役柄を演じたり、あるいは同じ役柄を複数の役者が演じたりすること。または、役柄を離れた役者が、舞台…

記号と意味(昔書いた演劇メモ①)

数年前小劇場の舞台を見始めたころ、最初に引っかかったのは、岡田利規の「役柄と役者の一致ということが、演劇を面白くなくしている正視に耐えないウソだ」という言葉だった。僕は岡田さんの芝居自体にはそれほど惹かれなかったのだが、彼の言わんとすると…

小劇場で芝居を観る

コロナ禍のせいで、しばらく芝居を観ていなかった。 来月に、知人の主宰する企画で、ダンスを読むというイベントに参加することになった。複数のダンサーによるコンテンポラリーダンスのパフォーマンスに対して言葉による解釈で介入していくという試みになる…

舞台と映画

ベンヤミンのアンソロジーを読んでいて、有名な「複製技術時代の芸術作品」を再読した。以前読んだときは、そこまで強い印象は受けなかったが、今の僕にはとてもいい。マルクス的な階級闘争史観を骨格にさまざまな視点とアイデアがギュッと詰め込まれていて…

ある演出家のアンガーマネジメント

昨日は、政治学者白井聡のネット上の暴言について書いた。彼は確信犯だから、形式的には謝罪したものの、自分のスタンスを変えるつもりはないだろう。 ちょうど同じ時期に、偶然まったくこれと反対の事例をネットで見つけた。演出家の多田淳之介さんには、か…

安部さんからのメール

安部さんは、僕のブログの数少ない毎日の読者だ。有名人でもないかぎり他人の日録など誰も興味をもたないし、親しい知人であっても、よほどの文章家でもないかぎり、こざこざした文を読みたいとは思わない。現に僕自身がそうだ。 安部さんは、僕などとは違い…

演劇試作『玉乃井の秘密』注釈

3年前に勉強会「9月の会」で、小劇場の舞台の魅力を報告するために、自分なりにそのエッセンスを盛り込んで書いた台本が、この『玉乃井の秘密』だ。 台本の出来はともかく、演劇を考察するために、参加者に実際に演じてもらうというアイデアは、「読書会芸人…

演劇試作『玉乃井の秘密』(その2)

【場面3 玉乃井の地底500メートルの掘削現場 1944年】 ※三人はゆっくり顔を上げながら立ち上がって、はるか真上を見上げるしぐさをする。 B(鉱夫1):こりゃあ、ずいぶん深く掘ったものだなあ。C(鉱夫2):俺たち、旅館の隣の炭鉱の宿舎に押し込…

演劇試作『玉乃井の秘密』(その1)

★コロナ禍で、劇場やホールでの演劇やコンサートなどが中止に追い込まれている。僕が予約していた小劇場の舞台も取りやめになった。その中で、テレビ会議システムを使ったオンライン上の演劇などの実験も行われているようだ。 ★僕は、以前、少人数の勉強会で…

介護と演劇(その2)

前回は菅原さんの演劇ワークショップの要点だけを書いたが、お年寄りを役者にした主宰する劇団の話もあって、さまざまに示唆的で説得力があった。 だから、すぐに記事にしたかったのだが、一か月以上かかってしまったのは理由がある。菅原さんのワークショッ…

介護と演劇

もう一か月以上前になるが、介護をテーマにした演劇ワークショップに参加した。正式名称は「老いと介護 演劇の力」で、講師は俳優にして介護福祉士の菅原直樹さんだった。座学が一時間で、そのあと三時間のワークショップがあった。参加者は20名ほどで、その…

『Q学』 田上パル 2019

田上豊さんの芝居を、昨年に引き続き観た。こちらのほうが田上パルという自分の劇団での上演作品だから、より完成度が高いもののはずだろう。しかし、僕には、昨年の作品の方が面白く、この作品は、観劇後10日ばかり経って、はやくも印象が薄れてしまって…

水田という演劇空間

以前、長期の演劇ワークショップに参加したとき、演出家の多田淳之介さんから教えられたのは、舞台の空間全体を見渡して、そこここで行われていることに反応する、ということだった。これは演者として舞台にたっているときだけではなく、観劇するときのコツ…

『ジュリアス・シーザー』 シェイクスピア 1599

尊敬する批評家柄谷行人の出世作は「マクベス論」だったし、柄谷のかつての盟友経済学者の岩井克人の高名な評論は「ヴェニスの商人の資本論」だ。ながく演劇の畑にいて公立劇場の館長をしている従兄は、日本の演劇人はシェイクスピアの教養すらないと嘆く。…

ダンスのワークショップにて

障害のある子どもたちが参加するダンスのワークショップを見学した。学生ボランティアを含めて20人強で、2時間程度のプログラム。講師は国際的に活躍しているマニシアさん。パーカッション奏者の生の伴奏つきだ。 このメンバーの独自のダンスを作るという…

「宗像SCAN」(主催M.M.S.T.)を観る

日本と韓国の演出家と役者を地元に滞在させて、地域を題材にした演劇作品を制作上演してもらう、という企画を観ることができた。こんな企画が自分のフィールド内で行われること自体おどろきで、ありがたい。 もちろん規模や内容において制約や限界があるのは…