大井川通信

大井川あたりの事ども

神々

『世界がわかる宗教社会学入門』 橋爪大三郎 2001

20年前以上に出版された宗教社会学の入門書を、今回ようやく読了した。何度か手にとっていたし、2010年に読み始めた日付が書き込まれているが、その時は挫折してしまったのだろう。この間、廃棄本にしようと思ったことさえある。すでに文庫化され安価に手に…

『ふしぎなキリスト教』 橋爪大三郎・大澤真幸 2011

橋爪も大澤も僕が若いころからの社会学のスターだが、近年出版される入門書の類はどうも感心できないことが多かった。しかし、該博な知識と視野の広さが要求される分野では、二人から学ばなければいけないことが多いと、『ゆかいな仏教』に引き続いて気づか…

遠山を眺望する

東京に帰省すると、この土地にとって富士山(3776m)がいかに大切な山であるかわかる。子ども時代にそれに気づかなかったのは、高度成長期以降の公害の影響もあるのではないか、と近頃思い至った。規制前の工場の煤煙や車の排気ガスが空を汚し、眺望を妨げ…

『シッダールタ』と唯幻論

読書会のもう一つの課題は、小説『シッダールタ』となんだか似ている(あるいは、ぜひ比較してみたくなる)別の作品をジャンル不問で連想してください、というもの。 この課題は、素人の読書会の課題としてとても優れていると思った。専門家同士の読みであれ…

立正佼成会のことなど

『日本の新興宗教』の中で、戦後に急速に勢力を増した教団として、創価学会とともに、立正佼成会が大きく取り上げられている。同じ日蓮宗系の新宗教でありながら、両者にははっきりした性格の違いがあるという。 僕は、幕末に出発した黒住教、金光教、天理教…

下町のキツネツキ

豊田正子の綴り方を読むと、戦前の庶民の暮らしの中で、キツネツキ現象がいかに身近なものであったかがわかる。子どもの目には、物珍しく題材に選びやすかったということもあるかもしれない。岩波文庫版『綴方教室』の中から、神がかりやキツネツキの女性を…

里山の三社参り

元日の夜には、近辺の村社(村の鎮守)の三社参りをしたから、新年最初の連休で、里山の神様への初詣をすることにした。 参道の入り口で、農作業するひろちゃんの娘さんに新年のあいさつ。ヒラトモ様への林道は枯れた竹にふさがれて通行できない部分がある。…

元日の三社参り

夜10時過ぎ、ようやく完成した家族の年賀葉書を投函しに外に出る。今日初めての外出。年賀状は、次男と妻の知人への近況報告がメインで、自分の分はここ数年出さないようにしている。 最寄りの郵便局まで歩いて、ふと近隣の神社にお参りしてみようと思いつく…

『月明学校』とクルソン岩

白髪岳や『月明学校』の舞台の分校に興味をもったのは、その近くの山中にクルソン峡があり、クルソン神社やクルソン岩などのクルソン信仰の遺物があるからだった。だから、『月明学校』の中に「狗留孫(くるそん)神社」の名前が出てきたときはうれしかった…

庚申塔さまざま(球磨、山鹿)

庚申塔(こうしんとう)は面白い。まず、とにかく数が多い。少し古い町なら、集落ごとにあったりもする。次に、形状も様々だ。とても同じ名称でひとくくりにできる石塔とは思えない。さらに地方ごとに大雑把な特色がある。僕の今の地元は文字塔ばかりだが、…

人吉盆地をめざす

月初の鎌倉に続いて、急に思い立って人吉盆地(球磨盆地)に旅行する予定を立てた。出不精で内弁慶の僕には珍しいことだ。 人吉盆地は、隣県熊本の中でも一番遠いところにあって、ほとんど意識したこともない場所だった。しかし今回調べてみると、僕の興味の…

黒住教の教会にて

僕が初めに黒住教に関心をもったのは、地元の黒尊(くろすみ)様と関係があるかもしれないと考えたためだ。黒尊様がまつられた幕末の年代と、黒住教の布教の時期は一致するし、黒尊様が「中国地方」から勧請されたという情報と、岡山が立教の地である黒住教…

石崎さん

仕事で福岡県の小郡市に行く。近頃は、出張でも車の運転がおっくうになって、公共交通機関を使うようになったから、駅から目的地までの道を歩くことになった。 街道付近の空き地に大きな石が二つ並んでいて、石のホコラもあり、白い説明板が立っている。それ…

教祖の息子

ある新宗教の教祖の長男が、ネットの動画配信者となって教団の暴露をしている。3年ばかり前からのことだが、今回初めていくつかをまとめて見てみた。 組織の内情の暴露といっても、単なる関係者と、教祖の家族しかも後継者として嘱望された長男とでは重みが…

金字塔 その他の塔

何かの業績をほめたたえるときに、「金字塔」という喩えを使う。少し大仰な響きもあるが、ごく一般的な用法だろう。ところが、ふとこの金字塔そのものが気になった。これはいったいどんな塔なのだろう。 無意識のうちにたぶんこんな正解を予想したと思う。昔…

天皇について少し

三島を読んで、天皇についていくつか思い出したことがあるので、それを少し。 30年くらい前だと思うが、ドゥルーズ・ガタリの『アンチ・オイディプス』を翻訳した市倉宏祐(1921-2012)の講演を聞く機会があった。最新流行の思想の話が聞けると思っていたの…

「イエスの方舟」を聴く

職場の上司が、中洲にあるイエスの方舟の人たちのお店「シオンの娘」の常連だったことから、何度かそこに付き合わされたのは、もう10年以上前のことだ。その時は、同じ東京郊外出身の彼女らと、ローカルな情報で盛り上がった。イエスの方舟の教会がかつて国…

気を取り直してヒラトモ様・ミロク様に初詣する

腰痛も峠をこしたようで、朝暗いうちに起き出して宗像大社に詣でる。まだ車も人もそこまで多くない。コロナ禍以降境内から締め出された夜店の数は少なく、かつて調査した東京ケーキの屋台も来ていない。次男が特等を当てたこともある新春の福みくじを二本引…

冬の霊山

通勤の途中で景色が開けた時、県境に近い英彦山の特徴あるシルエットを遠望することができる。大きく盛り上がった山塊の左隣に岩山の突起が三つ並んでいて、一目見て異様な姿に目を奪われる。さすが古くから修験の山とされているだけのことはある。(ただし…

『いのる』 文・森崎和江 絵・山下菊二 2016

著者の森崎和江さんは、ご近所に住んでいる。著作集がでている著名な文筆家だから、いつかしっかり読もうと思いつつ果たせていない。ずいぶん前になるが、一度ご自宅の前で顔を合わせたので挨拶すると、家に招き入れてもらい、しばらく話をうかがったことが…

ヒラトモ様へのお礼参り

コロナ感染症から回復してから、初めてヒラトモ様の里山に入る。参道の整備されているクロスミ様にはお参りをすませたが、夏になって山道がいっそう荒れているはずのヒラトモ様には、遠方からの遥拝しかできていなかったのだ。長雨と猛暑で足が向かなかった…

豪雨のお盆

僕の実家には、お盆という習慣はなかった。両親には多少行事ごとがあったかもしれないが、子どもたちにそれが共有されたりその意味が説明されたりすることがなかったのだと思う。 初詣の習慣もまったくなかったのと同じように、戦中派で戦前の神国日本による…

6月30日

6月は、1日に僕の緊急入院と命の危機から始まった激動の一か月だった。入院中はいうまでもなく、16日に退院してからの後半も、職場復帰やリハビリに神経を使い、仕事でも私生活でも新たな再出発に向けて動き始め、中身の濃い毎日だった。 この先どれくらい生…

ミロク様発見から7年

7年前は大井川歩きを本格的に始め、大井川通信(紙版)を書き始めた年だった。1月20日に里山でヒラトモ様を発見し、以後地元の方からの聞き取りや文献の調査などで、ヒラトモ様の概要を探るのに5月までかかった。そうして7年前の今日、力丸弘さんの証言から…

石鎚山に登る

「ひさの」の好さんが、裏山の山道の整備をして、山頂に鎮座する石鎚神社までお参りできるようにしたという。先日、クロスミ様に案内したとき、用山の人たちが山道を整備して、今でも自分たちの神様の世話をしている姿に刺激を受けたらしい。お父さんたちの…

我が家の屋敷神

【由緒】 大井の神様「ヒラトモ様」を信仰する主人の何某が、里山が荒れる一方で山道がふさがって参拝できなくなるのを恐れて、分霊を願った。ヒラトモ様の祠の近くの岩の欠片(もとはおそらく古墳の石材で、祠の岩と同種のもの)と奉納された木の根の一本を…

大井里山身体見立ての巻

八五郎「おい熊公、お前さんとうとう大井の里山の縦走の山道を見つけたっていうじゃねえか」 熊五郎「八っつあん、さすがに早耳だね。大井林道を上がって、ため池の先の林道の終点の所から、山の斜面をのぼれるんじゃないかと、おれは密かににらんでいた。先…

古事記を読む(中巻)

読書会で、中巻を読む。前半を扱った回は急用で欠席したので、議論に参加できたのは景行天皇からの後半だけだが、簡単にメモしておこう。 まずは、高千穂の宮から、神武天皇(カムヤマトイワレビコ)が、天下を治めるために東征して大活躍をする。道理で、僕…

『記憶する民族社会』 小松和彦編 2000

民俗学の学術的な論文集を読んだのは、おそらく初めてではないか。今まで入門書や人気学者の評論やエッセイしか読んだことはなかった。 しかも、自分にはちょっとした因縁のある本である。刊行当時に興味をもって購入したが、後の蔵書整理の時に捨ててしまっ…

坂の神様

「古事記」を読んでいたら、坂の神様、というのがでてきた。 山の神様とか、海の神様とかいうならわかるが、坂の神様というのはちょっと違和感がある。坂というのは、何かある実体というよりも、土地の傾斜という状態のことだろう。そこを切り出して、神格化…