大井川通信

大井川あたりの事ども

虫のいろいろ

『カブトムシの謎をとく』 小島渉 2023

ちくまプリマー新書の最新刊。こういうタイトルの本はすぐに手を伸ばしてしまう。 僕の近年のカブトムシ体験には「謎」が二つある。この二つの謎の回答を見つけるヒントになるような記述があった。 もう5年以上前のことだと思うが、東京郊外の実家近くの緑…

セミの幼虫はなぜ地中生活が長いのか?

これは僕の鉄板ネタなので、当然ブログの記事にしていると思った。今回、矢野智徳さんの話を聞いて、このネタに論点を付け加えて改良できることに気づいたのだが、そもそも引用できる元の記事がないので、はじめにそれを簡単に紹介したい。 ・まず、セミの幼…

プチ大井川歩き(ゲンゴロウとガムシの幼虫)

柄谷行人の援軍を得たとはいえ、実はこのところ大井川歩きをさぼっていた。心身ともに不調ということがある。家族関係でもストレスのたまることが多い。そこまで悲観的なものではないが「店じまい」というキーワードが浮かんだりもする。夢ばかりみていない…

ゴマダラカミキリの命運

我が家のシンボルツリーたるケヤキ。これ以上大きくなっても困るし、害虫に喰いあらされて樹勢がおとろえるのを放置するのも忍びない。 そんなわけでゴマダラカミキリに対しても、以前のように寛容でいられなくなった。わずかに保存された近所の鎮守の杜の樹…

原っぱのゲンゴロウ

豊田正子の『粘土のお面』には、こんな場面がある。描かれているのは昭和初期、正子が小学校4年生ぐらいの時だろう。 夏休みに入って、約束通り先生の家に泊まりにいきたい正子だが、親はなかなか許してくれない。先生への遠慮もあるだろうし、家事手伝いの…

タガメのことなら2時間くらい話せるよ

僕は友人知人がとても少ないし、人と深い付き合いをするのが苦手だ。ただ表面的なつきあいだけは何とかとりつくろってきたので、ひととおりの職業生活をなんとかこなしてきた。その間に出会った人たちにはそれなりの印象を残してきたようだ。 もともとおかし…

夏といえば虫だ

休日の早朝、大井川周辺を歩く。去年の今頃は、和歌神社の境内の銀杏の木の根元に謎のように毎朝カブトムシが落ちていた。大木がすべて切り払われて変に明るくなった境内ではそんなイリュージョンは起こりようがない。 ふと思いついて、昨年、コガタノゲンゴ…

ヒメハルゼミは健在でした

鎮守の杜が無残に伐採されてしまってから、和歌神社にはなかなか足が向かなかった。本当なら6月の終わりにはヒメハルゼミの合唱を聞きにいっていたところだ。ただ、このままシーズンが過ぎてしまうと、今年がどんな状況だったのか確認できない。 それで今日…

ラミーカミキリその他

朝、玄関わきのケヤキに小さな虫がとまっている。電車の時刻も迫っているから、スルーしようと思ったが、何歩か戻って、写真だけは撮っておくことにした。 10ミリくらいの小さな甲虫だが、身体のカラーリングが面白い。きれいに黒白に塗り分けられているが、…

小型黄金蜘蛛の隠れ帯

僕の家は、以前レッドロビンの垣根で囲われていたが、管理も悪いこともあって伸び放題の上、虫がついてかなり枯れてしまったので、3年ほど前、擬木のフェンスに替えた。そこだけは少し贅沢をして、擬木の板のうち一段をアルミの鋳造品を入れたのが我が家の自…

擬態を考える

昆虫の擬態について考えると、訳が分からなくなって、途方に暮れてしまう。しかし、今回は「カレハガ」が見事な擬態を見せてくれたのだから、そのことを考えずにはいられない。僕が考えられる範囲のことをメモしてみよう。 たとえば、僕の好きな蛾のオオスカ…

カレハガの擬態

僕の家の駐車スペースは、家屋の北側にあって、隣家の敷地(一メートル以上高い)との間に挟まれているから、少し湿っぽい。だから時々、珍しい昆虫がやってくる。 車の乗り降りの際に、家の壁板に枯れ葉が引っかかっているのに気づいた。次の乗り降りの時に…

消防用水のゲンゴロウ

休日の夕方、ほとんど期待もなく、大井を歩く。もう暗くなるし、単眼鏡をもってはいても、鳥を見る機会もないだろう。マスマルの集落をぐるっと回っているときだ。 道路わきには、消防用水のための小さな池があって、汚い水がたまっている。周囲は鉄条網で囲…

『素数ゼミの謎』 吉村仁 2005

もともと薄い本だけれども、解説の漫画のページも多く、実質は100頁にも満たないのではないか。しかし、生物学者である著者の研究論文をベースにしているだけに、その内容は濃く、とてつもなく面白い。 このセミの存在やこの本のことはうすうす知っていたが…

セミヤドリガ その4 -フィクションの試みとして

わたしは、夢の中で、少年の好奇心や幼い推理を楽しんでいた。少年の夏休みの自由研究というもの完成を応援したくなった。わたしはもちろん、ヒグラシやセミヤドリガといった生き物を実際に見たことはない。しかし、夢の中では、林の少し湿った空気や樹皮の…

セミヤドリガ その3 -フィクションの試みとして

そんなある日、僕は、あるヒグラシが、胴体によく目立つ大きな白い綿菓子のようなものをつけて飛んでいるのに気づいた。翌日には、同じような白い綿菓子をいくつもつけたまま、幹につかまっているヒグラシを見かけることができた。それは明らかに寄生虫に犯…

セミヤドリガ その2 -フィクションの試みとして

僕は、林の中を歩いていた。 そこは、ケヤキの植林だった。枝打ちされ、間引きされて、まっすぐに伸びた幹の間の空間は、比較的明るく、その斜面の山道を歩くのが、僕は好きだった。夏になると、僕の目当ては、植林のはずれにある雑木林で生まれるクワガタや…

セミヤドリガ その1 -フィクションの試みとして

わたしは、宇宙をさまよっていた。 わたしは宇宙船の上で生まれたのだと思う。気づいた時には、星々のきらめきの中を、わたしを乗せた宇宙船はどこまでもまっすぐに飛んでいた。ときたま、宇宙船は、光のない暗い天体の上に降りたった。すると船体は、ざらつ…

トラマルハナバチの蜜集め

子どもの頃から、クマバチが好きだった。まんまるな黒いおしり。これまた丸い胴体には黄金色の毛が生えている。大人になってからは、春の藤見の藤棚で見かけることが多かったが、かなり大きな姿を不快に思うことはなかった。 スズメバチはもちろん、どんな小…

カブトムシとの別れ

朝には元気だったカブトムシが、深夜帰宅してみると、昆虫ケースの中で仰向けにひっくり返って死んでいた。最後に入れた黒糖ゼリーをほぼ舐め切っているから、死の前まで食欲は旺盛だったのように見える。家に来て二か月。ほぼ天寿を全うして、人間でいえば…

オニグモの巣

僕が子どもの頃の小学館の昆虫の図鑑は、虫の姿は絵で描かれていた。カラー写真を使うのが高価だった時代だったのだ。しかし写真だと、その一枚の写真うつりで印象ががらりと変わる。絵の方がその種類の標準的な特徴をもりこめるというメリットがあるだろう…

ゲンゴロウの田んぼ総括

8月15日の「終戦記念日」に大井の田んぼで、大型ゲンゴロウ(正式な名称はコガタノゲンゴロウだからややこしいが)を見つけてから、足しげくその田んぼに足を運ぶようになった。こんなに田んぼをのぞくのは、10数年ぶりだ。 たしかに自然豊かな田んぼで、水…

トンボの話

職場の周囲には細い川が流れ、水路が張りめぐらされている。川をのぞくと、コサギやカルガモがエサを探してる姿を見かけるが、今の時期はトンボが飛び交っている。 銀色のシオカラトンボと黒い身体に腰の白が目立つコシアキトンボはすぐにわかるが、たくさん…

タガメには勝てない

月例の吉田さんとの勉強会。今月の奇跡の大型ゲンゴロウとの出会いを受けて、今回は実物資料に基づいた報告をしようと、茶目っ気を出す。 まずは、自分で拾ったアオイガイの殻と、先日ネット販売で手に入れたタコブネの殻。それに両者のガチャガチャの海洋生…

カイエビの泳ぎ方

コガタノゲンゴロウを目撃した田んぼで、ゲンゴロウの幼虫が、カイエビというものをエサとしているという話を書いた。 一センチにも満たない小さな生き物だが、妙に気になって引っかかる。自分がアオイガイ(カイダコ)とかタコブネとかが好きなことを思い出…

カイエビとホウネンエビ

コガタノゲンゴロウと運命的な出会いをした田んぼには、よく見るとたくさんのゲンゴロウの幼虫が泳いでいる。一センチあまりの色の薄いムカデみたいな形状で、頭部にはしっかりした大あごがあって肉食だ。 ただし、成虫の数ではヒメガムシの方が多いから、も…

大型種のゲンゴロウに出会う!

今から50年前の夏に、国立市谷保の田んぼで、小学生の僕は、体長一センチばかりの小さなゲンゴロウを採集するのに夢中だった。図鑑で見るような大きな黒光りするゲンゴロウは、公害問題の渦中にあった東京郊外ではすでに姿を消していたけれども。 今から16年…

カブトムシの研究

大井の鎮守の杜である和歌神社は、とても不思議な場所だ。 短い参道の先には田んぼが広がっているが、周囲には住宅があって、社殿背後の森も里山の開発からわずかに取り残されているだけだ。しかしそこがかなりの傾斜地であり、人が立ち入りにくい場所で、広…

ガムシの研究

タイトルは羊頭狗肉だ。本当は、研究なんてものではない。せいぜい「観察」くらいのものだけれども、僕は、この「研究」というタイトルがつけたくてたまらない。子どもの頃の「夏休みの自由研究」あたりの語感に由来する偏愛だろうか。世間の片隅の個人ブロ…

早起きは三文の徳(カブトムシを拾う)

早朝、大井を歩く。 住宅街から、秀円寺の裏山に入り、石段を降りて境内へ。ここは、かつての里山の雰囲気がかろうじて残されたところだ。途中、石仏の六地蔵にお参りすると、すぐ裏の樹木から大きな鳥影が飛び立った。羽音がしない。フクロウだ。 秀円寺は…