大井川通信

大井川あたりの事ども

詩と詩論

朔太郎の声

駒場公園にある日本近代文学館に初めて訪れる。吉祥寺図書館を見学して、そこにおいてあるチラシで、詩に関する企画展を開催していることを知ったからだ。早足で見れば、帰りの飛行機に間に合うだろう。 京王線の駒場東大前駅でおりて、東大駒場キャンパスの…

『若菜集』 島崎藤村 1897

読書会の課題詩集として読む。そうでなければ、絶対に手に取ることのない詩集だったと思う。文語で七五調の韻文というもののハードルはやはり高い。 しかし、3作好きな詩を選ぶという事前課題によって、時間をかけて読み進めていくと、若き島崎藤村(1872-…

海をながれる河

詩人石原吉郎の命日と同じ11月14日に、ハツヨさんは亡くなった。62歳で亡くなった石原吉郎が生きていれば、ハツヨさんと同じ104歳になっていただろう。偶然、二人が同世代であることに気づいた。 昭和12年の結婚し、その後満州に渡ったハツヨさんは、敗戦後…

悲しみはかたい物質だ 

別の詩を探していて、この一行に目が釘付けとなった。石原吉郎(1915-1977)の「物質」という詩。今の僕の思いとは少し距離があるけれども、こんな詩に再会すると、石原吉郎の詩集をていねいに読んでおきたい、という気持ちになる。そんな気持ちのまま、何…

樹空(つづき)

樹空という言葉で思い出したもう一つの詩は、僕の好きな丸山薫の、詩集にも入っていない無名の詩「樹と少女」だ。長い詩なので、5連中の第3連のみ引用する。 或る夜ふけ なにかの声で/不意に眠りから呼び戻された/月があったので私は無灯で庭へおりた/…

樹空

樹空という言葉はあるのだろうか。ネットで見ると、富士山の近くの公園の名前として出てくるだけだ。 以前、知り合いの画家の山本陽子さんの展覧会に行ったとき、テーマが「樹空」だと教えられたことがある。樹の梢や枝の葉がふれているあたりの空間のことだ…

生きるときは無名者として生きるのだから、死ぬときは王者として死なねばならぬ

高橋睦郎の短詩集『動詞』から。表題は、「生きる・死ぬ」。 たぶん老いることや、死へのプロセスについては、ある程度理解はすることができても、死それ自体については、よくわからないまま、まるで納得できないままに、その時を迎えるのだろうと思う。その…

僕の短歌

何事についても、それを考えるための手がかりは、自分が生きてきた時間と空間のうちにある。そこで短歌については、まず伯父とのかかわりが出てきた。では、僕自身、短歌を意識して作ったことはあるのか。これはまったく記憶にない。 詩なら、学生時代の草稿…

皇后美智子の短歌

読書会で永田和宏の『現代秀歌』を課題図書にした。哲学書や思想書を扱う読書会なのだが、僕の選書の順番だったので、そもそも短歌とな何なのか、という問いを短歌とはすこし距離のある場所で話し合うことができたら、というのが目論見だった。そのことを通…

伯父の短歌

もう30年も前の話になるが、従兄が、同じ演劇人同士で結婚をしたとき、青山の会館で結婚式を挙げることになった。親戚同士の顔合わせの小規模な式だったから、当時東京で塾講師をしていた僕が司会を頼まれた。 式が終わったあと、伯父から手渡された鉛筆書き…

『長谷川龍生詩集』 現代詩文庫18 1969 

長谷川龍生(1928-2019)の訃報が、数日前の新聞にあった。年譜を見ると、僕の母親より一年早く生まれ、一年遅く生きたことになる。 手もとにある詩集を追悼の気持ちで読んでみると、これがけっこう面白い。1950年代に書かれた詩が中心なので、その時代の雰…

吃驚する啄木

何すれば/此処(ここ)に我ありや/時にかく打驚きて室(へや)を眺むる 石川啄木の『一握の砂』の中で、この歌は、有名な「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ」の次に置かれている。 すると、先の歌が、不本意で不甲斐ない自…

啄木の通勤電車

読書会で、石川啄木(1886-1912)の歌集『一握の砂』(1910)を読む。啄木24歳での、生前出版された唯一の歌集だ。全551首のうち、通勤電車の風景を詠んでいると思われる歌が三首ある。 こみ会へる電車の隅に/ちぢこまる/ゆふべゆふべの我のいとしさ いつ…

『測量船』 三好達治 1930

詩歌を読む読書会での今月の課題詩集。 三好達治(1900-1964)は、昔から「石のうへ」がとにかく好きで、このブログでも分析を書いたことがある。今回も、博多の大寺にお参りした際に、境内の風景を眺めながら、何度も暗唱して楽しんだ。 経済学に限界効用…

『月に吠える』 萩原朔太郎 1917

今月から始まった詩歌を読む月例の読書会に参加する。この会が定着すれば、毎月の小説を読む会、隔月の評論を読む会、月例の個人勉強会とあわせて、生活の中で無理なく読んだり考えたりすることのペースメーカーになってくれるだろう。 初回は萩原朔太郎(18…

おあお鳥と山の媼(おうな)

時々、友人が近所の鳥の声を録音して、メールで種類を尋ねてくれる。自然の豊かなところにすむ神主さんの家系の人なので、鳥の声も珍しくて、僕の勉強にもなる。 先日、友人の聞きなしだと「ふぉわお~ふぉわお~」と鳴く鳥の録音が届いた。ウグイスやカラス…

ケヤキの根を掘る

ケヤキは、子どもの頃からなじみ深い木だ。隣町の府中の街中にはケヤキ並木があったし、古い農家の屋敷森には、巨大なケヤキが目立っていた。僕にとって、武蔵野のイメージに欠かせない木なのだ。 その理由をあれこれ思いめぐらしていて、昔から好きだった詩…

詩集「水駅」 荒川洋治 1975

今週の詩人、みたいな感じで、とりあえず荒川洋治(1949-)の詩集を持ち歩いてみた。わずか七編の処女詩集「娼婦論」(1971)が、やはり、たまらなくいい。とくに冒頭の「キルギス錐情」「諸島論」「ソフィア補填」と続く言葉の連なりは、神品としか思えな…

俳句を投稿する

怠け者の僕は、毎日のチェックリストをつけて自己管理を試みている。読書でいえば、評論、小説(漫画)、現代詩、短歌・俳句という欄があるのだけれども、どれも気を抜くと一週間くらい平気で無印のまま過ぎてしまう。どうにかしなければ。 現代詩は、今週の…

『木原孝一詩集』 現代詩文庫47 1969

木原孝一(1922-1979)は、田村隆一と同世代の「荒地」の詩人。昔から気になっていたが、今回初めて現代詩文庫を通読した。この詩人も57歳で亡くなっている。やれやれ。 イメージと構成の明快な思想詩を書いている印象があったが、似ていると思った田村隆一…

『死の淵より』 高見順 1964

昨年は、現代詩を義務的に読むことをしてみた。それで詩を読む習慣を、ほとんど学生の頃以来久しぶりに取り戻せたような気がする。今年は、さらに自由に詩を楽しんでみたい。あんまり目くじらを立てずに、肩の力を抜いて。 高見順(1907-1965)は、昔から好…

詩集『錦繡植物園』 中島真悠子 2013

5年ばかり前、新聞の夕刊に彼女の詩が載っていた。新聞で詩を読む機会はめったにないのだが、そのときは読んでとても気に入った。それで、大きな書店まで彼女の詩集を買いに行った。 詩集は、気楽に読み通したりできない。買ったばかりで何篇かめくってみた…

詩の朗読会にて

すでに英文で三冊の詩集をもち、今春初めて日本語の詩集を出す髙野吾朗さんの出版祝賀会を兼ねた詩の朗読会に参加する。出版元の花乱社の一室に詩人の声が多様に響き渡るすばらしい会だった。僕も以下の文章を持参して、祝意を示した。表題は、「髙野吾朗さ…

詩集「富士山」 草野心平 1966

中学校時代の国語教師は、頑固な初老の先生で、たいぶ鍛えられた。教科書の予習では、国語辞典で調べて新出の熟語の意味をノートに書きだしてこないといけない。生徒たちの辞書の出版社はバラバラだから、これは新潮や三省堂ではどんな説明だったの?とか尋…

『夕陽に赤い帆』 清水哲男詩集 1994

ネットで、好きな詩人清水昶の箱入りの詩集を買った。40年近く前の詩集だけれども、ほとんど読んだ形跡がないほど真新しい本が届いて、歓喜した。かつて亡くなった知り合いの古本屋さんで、買おうとして他の客に先を越されて悔しい思いをした本だ。 駅ビルで…

ありがとにゃん

井川博年に「生きていく勇気」という詩があって、学生時代に読んでから、頭の片隅に残っていた。 僕は友人とバーで飲んで、友人のバカ話に耳を傾ける。出張先の街でオカマ二人に声をかけられてホテルに入っておこなった行為の詳細に、腹を抱えて笑う。そして…

『カセットテープ少年時代』 マキタスポーツ×スージー鈴木 2018

「80年代歌謡曲解放区」が副題。BSテレビでの二人の対談番組の書籍化。 サザンやチェッカーズやユーミン、松田聖子など、80年代当時に爆発的に売れて、時代の音楽としてすっかり耳になじんでいるけれども、語られることが少なかった歌謡曲を、縦横無尽に語り…

『くだもののにおいのする日』 松井啓子 1980

2014年に新装復刊された詩集を購入した。学生時代、詩をよく読んでいた頃に活躍していた詩人だから、名前くらいは知っていた。 ひとりでごはんを食べていると/うしろで何か落ちるでしょ/ふりむくと/また何か落ちるでしょ ちょっと落ちて/どんどん落ちて…

疲れる若者

『通勤電車で読む詩集』で、トーマ・ヒロコという若い詩人の「ひとつでいい」という詩を読んだ。以下、末尾を引用する。 おはようも/ありがとうも/ごめんなさいも/さようならも/おやすみも/もう要らない/この世を生き抜くためには/挨拶はひとつでいい…

アンソロジーを読んでみよう

『通勤電車で読む詩集』小池昌代編著。NHK出版の生活人新書の一冊として、2009年に発行された後、増刷を重ね、同新書で別のテーマのアンソロジー企画につながっているから、詩の本としては、ヒットしたものなのだろう。 いつもの採点法をざっと使うと、全41…