大井川通信

大井川あたりの事ども

詩と詩論

『カセットテープ少年時代』 マキタスポーツ×スージー鈴木 2018

「80年代歌謡曲解放区」が副題。BSテレビでの二人の対談番組の書籍化。 サザンやチェッカーズやユーミン、松田聖子など、80年代当時に爆発的に売れて、時代の音楽としてすっかり耳になじんでいるけれども、語られることが少なかった歌謡曲を、縦横無尽に語り…

『くだもののにおいのする日』 松井啓子 1980

2014年に新装復刊された詩集を購入した。学生時代、詩をよく読んでいた頃に活躍していた詩人だから、名前くらいは知っていた。 ひとりでごはんを食べていると/うしろで何か落ちるでしょ/ふりむくと/また何か落ちるでしょ ちょっと落ちて/どんどん落ちて…

疲れる若者

『通勤電車で読む詩集』で、トーマ・ヒロコという若い詩人の「ひとつでいい」という詩を読んだ。以下、末尾を引用する。 おはようも/ありがとうも/ごめんなさいも/さようならも/おやすみも/もう要らない/この世を生き抜くためには/挨拶はひとつでいい…

アンソロジーを読んでみよう

『通勤電車で読む詩集』小池昌代編著。NHK出版の生活人新書の一冊として、2009年に発行された後、増刷を重ね、同新書で別のテーマのアンソロジー企画につながっているから、詩の本としては、ヒットしたものなのだろう。 いつもの採点法をざっと使うと、全41…

好きな詩人を読んでみよう

粕谷栄一(1934-)は、一貫して不条理な寓話風の散文詩を書き継いでいる詩人。現代詩文庫に入っている処女詩集『世界の構造』を読んでファンになったため、目についた時に購入した詩集を二冊持っている。そのうちの一冊『鏡と街』(1992)を、5年ほど前に半…

無名の詩人を読んでみよう

数少ない有名な詩人以外にも、多くの人が詩を書いているだろう。彼らは、さほど名が知られていないという意味で「無名」の詩人といえる。たまたま目に触れて気に入ったからとか、知り合いから紹介されたから、などという理由で、彼らの詩集も何冊か、僕の書…

新しい詩人にも挑戦してみよう

思潮社の現代詩文庫で『三角みづ紀詩集』を読んでみる。以前詩を扱う小さな書店に行ったとき、ちょうど詩人がゲストとして来るイベントの直前で、平積みになっていたので、つきあいで購入したもの。三角みづ紀(1981-)は、僕でもなんとなく名前は知ってい…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その3)

今回のにわか仕立ての詩論のシリーズは、たまたま手元にある詩集と詩に関するなけなしの知識を出発点にするつもりである。実はわかりやすい詩で、まっさきに思い浮かんだのが、井川博年(1940-)だった。 内容的には、身辺雑記や回想風のエッセイがほとんど…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その2)

近頃、衛星放送で、1973年のドラマ『雑居時代』を見ている。子どもの頃、夕方の再放送で夢中になってみた、いわゆる石立ドラマの一本だ。亡くなってしまった石立鉄男も大原麗子も、みな若い。現在老成してしまったかに思える日本社会も、当時はまだ猥雑で、…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう

なぜ僕は詩を読まないか。こんな基本的な問いを考えるのだから、日ごろ気になっている幼稚な疑問についても、ずるずると明るみに引きずりだしてこないといけない。まずは、詩のわかりやすさ。 現代詩は多くは難解であって、特別な言葉使いや表記を駆使し、日…

なぜ僕は詩を読まないか

10日ばかり先に開催されるとある読書会で、僕は現代詩の入門書について報告することになっている。報告者をかって出たのも、本を選んだのも自分だから文句はいえないが、どうも準備がはかどらない。気持ちがのらない。今回、知ったかぶりの知識ではなく、そ…

『今を生きるための現代詩』 渡邊十絲子 2013

5年ぶりの再読。老練の荒川洋治の著作を読んだあとだからか、著者の「詩人」としての自意識の固さが、はじめは気になった。「詩はよくわからない」という人は、詩の大切さがわかっているくせに、子供の感想みたいなことしかいえないものだから、自分を守っ…

『詩とことば』 荒川洋治 2004

理由があって、詩について、少しまとめて考えようと思い立った。新しく、手に入りやすい詩論を探しても、今はほとんど出版されていない。結局、積読の蔵書から読み始めることにする。荒川洋治は、世代を代表する詩人で、僕にも好きな詩がある。感覚的に好き…

山本健吉の『現代俳句』

昨年の夏ぐらいから少しずつ読んで、ようやく読了した。もとは1952、53年に出版されていて、学生時代に愛読していたのは、1964年の角川文庫版。今回は、1998年の角川選書版の『定本 現代俳句』を読み通した。 ちょくちょく拾い読みをして、面白いと思いなが…

戦後抒情詩の秀作-清水昶『夏のほとりで』

明けるのか明けぬのか/この宵闇に/だれがいったいわたしを起こした/やさしくうねる髪を夢に垂らし/ひきしまる肢体まぶしく/胎児より無心に眠っている恋人よ/ここは暗い母胎なのかもしれぬ/そんな懐かしい街の腹部で/どれほど刻(とき)がたったのか…

至高の抒情詩-三好達治『石のうへ』

あわれ花びらながれ/をみなごに花びらながれ/をみなごしめやかに語らひあゆみ/うららかの足音空にながれ/をりふしに瞳をあげて/翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり/み寺の甍みどりにうるほひ/庇々に/風鐸のすがたしづかなれれば/ひとりなる/わが身の…

芥川と凡兆

ミソサザイとの出会いから、野沢凡兆という俳人を思い出した。芭蕉の一門人である彼を、どうして知るようになったのか。すると、芥川龍之介のことに思い当った。大学の前半くらいまでは、僕は古風な文学少年だったので、地元の図書館で芥川や泉鏡花の全集な…

詩人村野四郎のこと

鹿は 森のはずれの/夕日の中に じっと立っていた/彼は知っていた/小さな額が狙われているのを/けれども 彼に/どうすることが出来ただろう/彼は すんなり立って/村の方を見ていた/生きる時間が黄金のように光る/彼の棲家である/大きい森の夜を背景…

「秋の祈り」高村光太郎 1914

秋は喨喨(りょうりょう)と空に鳴り/空は水色、鳥が飛び/魂いななき/清浄の水こころに流れ/こころ眼をあけ/童子となる 多端紛雑の過去は眼の前に横はり/血脈をわれに送る/秋の日を浴びてわれは静かにありとある此(これ)を見る/地中の営みをみづか…

高階杞一詩集 ハルキ文庫 2015

1951年生まれの詩人の15冊の詩集からのアンソロジー。今では小学校の教科書にも載っている。平明な言葉で、素直な感情のひだをやさしくうたう。もちろん食い足りない人はいるだろうが、それが彼の選択した「詩」なのだろう。 僕は、突き抜けた設定で飄々と押…