大井川通信

大井川あたりの事ども

詩と詩論

ケヤキの根を掘る

ケヤキは、子どもの頃からなじみ深い木だ。隣町の府中の街中にはケヤキ並木があったし、古い農家の屋敷森には、巨大なケヤキが目立っていた。僕にとって、武蔵野のイメージに欠かせない木なのだ。 その理由をあれこれ思いめぐらしていて、昔から好きだった詩…

詩集「水駅」 荒川洋治 1975

今週の詩人、みたいな感じで、とりあえず荒川洋治(1949-)の詩集を持ち歩いてみた。わずか七編の処女詩集「娼婦論」(1971)が、やはり、たまらなくいい。とくに冒頭の「キルギス錐情」「諸島論」「ソフィア補填」と続く言葉の連なりは、神品としか思えな…

俳句を投稿する

怠け者の僕は、毎日のチェックリストをつけて自己管理を試みている。読書でいえば、評論、小説(漫画)、現代詩、短歌・俳句という欄があるのだけれども、どれも気を抜くと一週間くらい平気で無印のまま過ぎてしまう。どうにかしなければ。 現代詩は、今週の…

『木原孝一詩集』 現代詩文庫47 1969

木原孝一(1922-1979)は、田村隆一と同世代の「荒地」の詩人。昔から気になっていたが、今回初めて現代詩文庫を通読した。この詩人も57歳で亡くなっている。やれやれ。 イメージと構成の明快な思想詩を書いている印象があったが、似ていると思った田村隆一…

『死の淵より』 高見順 1964

昨年は、現代詩を義務的に読むことをしてみた。それで詩を読む習慣を、ほとんど学生の頃以来久しぶりに取り戻せたような気がする。今年は、さらに自由に詩を楽しんでみたい。あんまり目くじらを立てずに、肩の力を抜いて。 高見順(1907-1965)は、昔から好…

詩集『錦繡植物園』 中島真悠子 2013

5年ばかり前、新聞の夕刊に彼女の詩が載っていた。新聞で詩を読む機会はめったにないのだが、そのときは読んでとても気に入った。それで、大きな書店まで彼女の詩集を買いに行った。 詩集は、気楽に読み通したりできない。買ったばかりで何篇かめくってみた…

詩の朗読会にて

すでに英文で三冊の詩集をもち、今春初めて日本語の詩集を出す髙野吾朗さんの出版祝賀会を兼ねた詩の朗読会に参加する。出版元の花乱社の一室に詩人の声が多様に響き渡るすばらしい会だった。僕も以下の文章を持参して、祝意を示した。表題は、「髙野吾朗さ…

詩集「富士山」 草野心平 1966

中学校時代の国語教師は、頑固な初老の先生で、たいぶ鍛えられた。教科書の予習では、国語辞典で調べて新出の熟語の意味をノートに書きだしてこないといけない。生徒たちの辞書の出版社はバラバラだから、これは新潮や三省堂ではどんな説明だったの?とか尋…

『夕陽に赤い帆』 清水哲男詩集 1994

ネットで、好きな詩人清水昶の箱入りの詩集を買った。40年近く前の詩集だけれども、ほとんど読んだ形跡がないほど真新しい本が届いて、歓喜した。かつて亡くなった知り合いの古本屋さんで、買おうとして他の客に先を越されて悔しい思いをした本だ。 駅ビルで…

ありがとにゃん

井川博年に「生きていく勇気」という詩があって、学生時代に読んでから、頭の片隅に残っていた。 僕は友人とバーで飲んで、友人のバカ話に耳を傾ける。出張先の街でオカマ二人に声をかけられてホテルに入っておこなった行為の詳細に、腹を抱えて笑う。そして…

『カセットテープ少年時代』 マキタスポーツ×スージー鈴木 2018

「80年代歌謡曲解放区」が副題。BSテレビでの二人の対談番組の書籍化。 サザンやチェッカーズやユーミン、松田聖子など、80年代当時に爆発的に売れて、時代の音楽としてすっかり耳になじんでいるけれども、語られることが少なかった歌謡曲を、縦横無尽に語り…

『くだもののにおいのする日』 松井啓子 1980

2014年に新装復刊された詩集を購入した。学生時代、詩をよく読んでいた頃に活躍していた詩人だから、名前くらいは知っていた。 ひとりでごはんを食べていると/うしろで何か落ちるでしょ/ふりむくと/また何か落ちるでしょ ちょっと落ちて/どんどん落ちて…

疲れる若者

『通勤電車で読む詩集』で、トーマ・ヒロコという若い詩人の「ひとつでいい」という詩を読んだ。以下、末尾を引用する。 おはようも/ありがとうも/ごめんなさいも/さようならも/おやすみも/もう要らない/この世を生き抜くためには/挨拶はひとつでいい…

アンソロジーを読んでみよう

『通勤電車で読む詩集』小池昌代編著。NHK出版の生活人新書の一冊として、2009年に発行された後、増刷を重ね、同新書で別のテーマのアンソロジー企画につながっているから、詩の本としては、ヒットしたものなのだろう。 いつもの採点法をざっと使うと、全41…

読書会のあとで

現代詩を扱う本をレポートする読書会が終わった。あらためて思ったことが三つ。 まずは、特定の世代以降、やはり現代詩が読まれなくなっているということ。 次に、自分なりの気づきや発見がありさえすれば、どんな分野でも、なんとか語り通すことができると…

好きな詩人を読んでみよう

粕谷栄一(1934-)は、一貫して不条理な寓話風の散文詩を書き継いでいる詩人。現代詩文庫に入っている処女詩集『世界の構造』を読んでファンになったため、目についた時に購入した詩集を二冊持っている。そのうちの一冊『鏡と街』(1992)を、5年ほど前に半…

無名の詩人を読んでみよう

数少ない有名な詩人以外にも、多くの人が詩を書いているだろう。彼らは、さほど名が知られていないという意味で「無名」の詩人といえる。たまたま目に触れて気に入ったからとか、知り合いから紹介されたから、などという理由で、彼らの詩集も何冊か、僕の書…

新しい詩人にも挑戦してみよう

思潮社の現代詩文庫で『三角みづ紀詩集』を読んでみる。以前詩を扱う小さな書店に行ったとき、ちょうど詩人がゲストとして来るイベントの直前で、平積みになっていたので、つきあいで購入したもの。三角みづ紀(1981-)は、僕でもなんとなく名前は知ってい…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その3)

今回のにわか仕立ての詩論のシリーズは、たまたま手元にある詩集と詩に関するなけなしの知識を出発点にするつもりである。実はわかりやすい詩で、まっさきに思い浮かんだのが、井川博年(1940-)だった。 内容的には、身辺雑記や回想風のエッセイがほとんど…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう(その2)

近頃、衛星放送で、1973年のドラマ『雑居時代』を見ている。子どもの頃、夕方の再放送で夢中になってみた、いわゆる石立ドラマの一本だ。亡くなってしまった石立鉄男も大原麗子も、みな若い。現在老成してしまったかに思える日本社会も、当時はまだ猥雑で、…

まずは、わかりやすい詩から読んでみよう

なぜ僕は詩を読まないか。こんな基本的な問いを考えるのだから、日ごろ気になっている幼稚な疑問についても、ずるずると明るみに引きずりだしてこないといけない。まずは、詩のわかりやすさ。 現代詩は多くは難解であって、特別な言葉使いや表記を駆使し、日…

なぜ僕は詩を読まないか

10日ばかり先に開催されるとある読書会で、僕は現代詩の入門書について報告することになっている。報告者をかって出たのも、本を選んだのも自分だから文句はいえないが、どうも準備がはかどらない。気持ちがのらない。今回、知ったかぶりの知識ではなく、そ…

『今を生きるための現代詩』 渡邊十絲子 2013

5年ぶりの再読。老練の荒川洋治の著作を読んだあとだからか、著者の「詩人」としての自意識の固さが、はじめは気になった。「詩はよくわからない」という人は、詩の大切さがわかっているくせに、子供の感想みたいなことしかいえないものだから、自分を守っ…

『詩とことば』 荒川洋治 2004

理由があって、詩について、少しまとめて考えようと思い立った。新しく、手に入りやすい詩論を探しても、今はほとんど出版されていない。結局、積読の蔵書から読み始めることにする。荒川洋治は、世代を代表する詩人で、僕にも好きな詩がある。感覚的に好き…

山本健吉の『現代俳句』

昨年の夏ぐらいから少しずつ読んで、ようやく読了した。もとは1952、53年に出版されていて、学生時代に愛読していたのは、1964年の角川文庫版。今回は、1998年の角川選書版の『定本 現代俳句』を読み通した。 ちょくちょく拾い読みをして、面白いと思いなが…

戦後抒情詩の秀作-清水昶『夏のほとりで』

明けるのか明けぬのか/この宵闇に/だれがいったいわたしを起こした/やさしくうねる髪を夢に垂らし/ひきしまる肢体まぶしく/胎児より無心に眠っている恋人よ/ここは暗い母胎なのかもしれぬ/そんな懐かしい街の腹部で/どれほど刻(とき)がたったのか…

至高の抒情詩-三好達治『石のうへ』

あわれ花びらながれ/をみなごに花びらながれ/をみなごしめやかに語らひあゆみ/うららかの足音空にながれ/をりふしに瞳をあげて/翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり/み寺の甍みどりにうるほひ/庇々に/風鐸のすがたしづかなれれば/ひとりなる/わが身の…

芥川と凡兆

ミソサザイとの出会いから、野沢凡兆という俳人を思い出した。芭蕉の一門人である彼を、どうして知るようになったのか。すると、芥川龍之介のことに思い当った。大学の前半くらいまでは、僕は古風な文学少年だったので、地元の図書館で芥川や泉鏡花の全集な…

詩人村野四郎のこと

鹿は 森のはずれの/夕日の中に じっと立っていた/彼は知っていた/小さな額が狙われているのを/けれども 彼に/どうすることが出来ただろう/彼は すんなり立って/村の方を見ていた/生きる時間が黄金のように光る/彼の棲家である/大きい森の夜を背景…

「秋の祈」高村光太郎 1914

秋は喨喨(りょうりょう)と空に鳴り/空は水色、鳥が飛び/魂いななき/清浄の水こころに流れ/こころ眼をあけ/童子となる 多端紛雑の過去は眼の前に横はり/血脈をわれに送る/秋の日を浴びてわれは静かにありとある此(これ)を見る/地中の営みをみづか…