大井川通信

大井川あたりの事ども

無邪気な人々 椎名麟三 1952

緒方隆吉が妻弘子と住む二階屋に、突如赤ん坊が届けられる。空襲で死んだはずの弘子の前夫が、弘子との間の子であるという戸籍とともに置いて、立ち去ったのだ。

敬虔なキリスト教徒の隆吉は、事態の不可解さとともに、重婚を犯した罪におののく。

赤ん坊の夜泣きに苦しむ間借人の久保健三は、いきがかり上調査に乗り出し、事実を突き止める。前夫塚原も再婚したが、妻勝子と上手く行かず、勝子が生んだ子の出生届で弘子の生存を知り、戸惑いながら赤ん坊をあずけたのだと。

しかし、その事実は緒方夫婦には伝わらずに、「誤解」に押しつぶされるかのような悲劇が結末で暗示される。

周囲の人々を振り回しながら、何者からも自由で不逞な赤ん坊の肉体が、物語の中心に据えられている。