大井川通信

大井川あたりの事ども

博多 東長寺にて

義母の墓参りで、博多にある東長寺にお参りする。空海が帰朝後に開いた最初の寺で、大学受験で「晴れむ(ハ・レ・ム)心で真言開宗」と覚えこんだ806年が創建の年だという。驚くような由緒だが、博多駅近くのビル街にあって、歴史を思い返すには不利な環境かもしれない。寺の見どころも、平成になって作られた大仏と五重塔である。

大仏は、コンクリート造の寺務所の階上に安置されており、現代の名の通った仏師による10メートルを超す木造座像である。当時ドキュメンタリー番組が作られていて、いよいよ大仏の頭部を重機で搬入するという時、檀家の義母が祈るようにして見あげる横顔が大写しになった。義母が亡くなったあとに、深夜の再放送でそのシーンを見つけて夫婦で驚いたのを思い出す。大仏に参拝すると、あらためてその「大きさ」が、強いメッセージとなっていることに気づいた。身長で10倍の差がある人物と間近に対峙するという、ありえない事態にさらされるわけだが、それだけでも生き物として命の危機のレベルだろう。

五重塔は、朱色の総ヒノキ造りで、平安建築の国宝醍醐寺五重塔をモデルにていねいに作られていることは、素人目にもわかる。各層の高さが低く、軒の出が深い上に逓減率が大きい。このため、五層の屋根が一体となって、華やかな末広がりの形をつくっている。その上に垂直にたつ大きな相輪が、朱色の羽をひろげた蝶を止める黄金のピンのようで美しい。備中国分寺五重塔で、メカニカルな反復の単色の美を発見したばかりだが、それが吹き飛んでしまった。これはまるで別種の建築だろう。

ただ高さは23メートルで、醍醐寺の三分の二にも満たない。ビルの谷間に埋もれるロケーションもあって、見上げる塔として迫力不足なのは否めない。ここでも「大きさ」の重要性を感じることができた。