大井川通信

大井川あたりの事ども

ハラビロカマキリの闘い(その2)

翌日浜辺を歩くと、また別の場所で、海水に濡れた緑色のハラビロカマキリを見つけた。障害物のないきれいな遠浅の砂浜で、カマキリは思い切り自由にふるまえるし、こちら側も変な先入観なく観察することができた。

カマキリは、まず、海に向かって真っすぐに立ち、大きな波が打ち寄せてくるのを明らかに待っている。波が届かないからといって、波打ち際にどんどん歩いていくということはしない。すると、ようやく足元に届くくらいの波がくるが、ふんばって姿勢をくずさない。次にさらに大きな波が来て、カマキリを飲み込む。水の中で腹を見せてひっくり返りながら、一メートルばかり押し戻される。カマキリは大慌てで、両方のかまを砂に引っ掛けて態勢を立て直す。波が引いても、しばらくうつぶせの姿勢で身を低くして動かない。やがて、身を起こすと、ある程度の大きさの波が届くくらいの場所まで、すたすたと歩いていく。波が来るまで、口を使って濡れたかまや足の手入れをしたりする。やがて、大きな波がやって来て、カマキリを押しもどす・・・これを何度も繰り返している。

今日は波が比較的荒く、沖には波を待って器用に波乗りするサーファーたちの姿が見える。カマキリの様子は、彼らとまったく同じだ。波にもみくちゃにされながらも、ちゅうちょなく元の場所に戻るカマキリは、波に飲まれるのを楽しんでいるようにしか見えない。寄生虫ハリガネムシの分泌する物質によって、カマキリの脳は、人間なみに生存本能を超えた欲望や幻想を抱くようになったのではないか。そんな想像をしてしまうほど、彼のふるまいは人間的で、ルールのある遊びのようだ。