大井川通信

大井川あたりの事ども

旅するアサギマダラ

この秋はじめてアサギマダラを見た。松林を抜けるあたりの道の先に、一匹の大型の蝶が見えたが、フワフワ浮かぶような飛び方がアゲハとは違う。近づくと、白をベースに黒い縁取りと朱色が美しいアサギマダラで、ゆっくり林の上に消えていくのを、うっとりとして見送った。

アサギマダラは、場合によっては2000キロ以上という、途方もない距離の渡りをする蝶である。それが知られるようになったのは、比較的近年のことらしい。この地域では、春の北上の時は、海岸のスナビキソウに集まる。この春には、青い海原をバックに、数匹が舞う姿を見ることができた。秋の南下のときには、フジバカマの花に集まるが、林の中や住宅街などで思いがけず出くわすこともある。

虫好きのコラムニストの泉麻人が、アサギマダラの飛び方について、「ぎこちないというか、一種人工的で、よく幼児向けの番組なんかで出てくるピアノ線で吊ったオモチャの蝶の動き、に近い」と書いているが、言いえて妙だ。ただ、その穏やかな姿は、旅という過酷な使命を帯びているために、特別なオーラを放って見える。