大井川通信

大井川あたりの事ども

住宅街の恐怖

今の街に引っ越して、まだ間もない時だったと思う。住宅の数も少なくて、今より周辺もだいぶさみしかった。夜中、子どもを残して夫婦で車を出した。翌日の用事にそなえて、買い物とガソリンの給油に行ったと記憶している。当時3歳の長男は寝付いていたし、同居の義母もおり、しっかり鍵も締めて出た。

目当てのスタンドが閉まっていて、予想より時間がかかったのは確かだった。ようやく家に近づいて、住宅街の下のため池の近くまで来たときだった。自動車のライトが、人気のない池沿いの道を照らすと、突然小さな子どもの姿が現れた。子どもは寝間着を着ているのだが、しっかりと前を見て、大きなサンダルをはいて、目的があるみたいにすたすたと歩いている。呆然と見送ってから、それが我が子であることに気づいた。

もう少し先の車道まで行っていたら、車にひかれていたかもしれない。そうでなくとも、どんな事故に巻き込まれたかわからないし、仮に無事でも、そこで見つけていなければ、自分たちが帰宅後に大変なパニックになっていただろう。

あとで子どもに聞くと、ブランコに乗りたかったという。確かにその方向には、隣の住宅街の児童公園がある。しかし、自分一人で鍵をあけ、怖いはずの真っ黒な夜に出て、いったい何に導かれてあんなに一心に歩いていたのか。今でもよくわからない。