大井川通信

大井川あたりの事ども

『ビブリオ漫画文庫 』山田英夫編 2017

ちくま文庫所収の本をめぐる漫画アンソロジー。本をテーマにした漫画を集めると、結果として古本屋を舞台にしたものが多くなるのはなぜだろう。

先日、一箱古本市というものに初めて出店した。主催者が出店が少なくて困っているというので、実際は一箱ではなく四箱、150冊を蔵書から選んで出した。基準は、手放しても惜しくないものに絞ったのだが、それだけだと見映えが悪いので、多少いい本を混ぜておいた。売れたのは、そのいい本の方ばかりだった。しかし、惜しいとは思えず、むしろもっと良いものを出しておけばよかったという不思議な感覚を味わえた。

幼児を連れた感じのよい若い夫婦がやってきて、永井均の哲学絵本と中川季枝子の童話を買って帰ってゆく。彼らの暮らしの中に自分の本が溶け込んでいく様を思い描いて、とても幸せな気持ちになれたのだ。たいていは不愛想な古本屋の店主たちの内面にも、こんな感情の揺らぎがあったのかと想像してしまう。

たしかに古書をめぐっては、こんなセンチメンタルな感情が引き起こされやすい。人と人とをとりもつ従順な媒介として本を描く作品が多いのはそのためだろう。しかし、本には、どこか得体のしれないところがある。水木しげるは、何世紀にもわたって人を喰い続ける古本の妖怪の話、楳図かずおは、愛するあまり自分の妻の皮を剥いで一冊の本にしてしまった男の話、諸星大二郎は、古本マニアの怨念が作り上げた本だらけの地獄の話を描いて、他の作家たちの感傷とは一線を画している。彼らの破格の想像力が、書物というモノの悪魔的な本質をとらえたといえるかもしれない。