大井川通信

大井川あたりの事ども

ニュータウンのアイデンティティ

郊外のリノベーションをめぐる連続講座で、今回は都市計画が専門の黒瀬武史さんの話を聞いた。デトロイトの住宅地の衰退と再生の試みの報告で、住宅地の衰退ぶりは驚くほどだが、一方再生のアイデアの大胆さにも驚かされた。

一つの都市をゼロから立ち上げて、それが立ちいかなくなった時には、それを徹底して作り替えようとする。合理的で欧米的な発想という気がする。一方、日本の身近なニュータウンや開発団地は、たいてい既存の村落の里山が開発されたもので、開発の当初から旧地区との様々な関係や交渉を持っている。だから、エリアとして再生を図る場合には、住宅街内部の問題として扱うだけではなく、境界の外との関係を見直したり、再構築したりすることが有効なのではないか。

グループ討議の報告者となったとき、そんな話をしたら、黒瀬さんが面白いコメントをしてくれた。ニュータウンで生まれ育った学生から、こんな話を聞いたそうだ。自分のアイデンティティは、生まれ育ったニュータウンにあるし、そのニュータウンアイデンティティは旧地区の村落にあるのだと。やや屈折した表現の真意が、僕にはよくわかる気がする。

ニュータウン生まれの子どもたちの好奇心は、平板な住宅街には満足せずに、その境界を越えて、旧地区の田んぼや川や山林や神社に向かうだろう。だから住宅街での生活の記憶は、旧地区での異界体験と完全にセットになっているのだ。僕は今でも、故郷の住宅街に帰省したとき、子どもの頃のドキドキ感を求めるように旧村の神社や自然に足を向ける。

その学生さんにならって言おう。僕のアイデンティティは国立の住宅街にあり、国立の住宅街のアイデンティティは谷保の文化や自然にある。