大井川通信

大井川あたりの事ども

『奇妙で美しい石の世界』 山田英春 2017

著者の名前にひかれて、自分にはずいぶん場違いな本を買ってしまったと思っていた。主に瑪瑙(メノウ)などの石の断面の「奇妙で美しい」模様を図版で解説する本だ。しかし読みながら、自分も石について興味があって、何冊も本持っていることを思い出した。それらは、大井川歩きで出会うような、石仏や石塔、巨石などのについての本だ。この本が扱うものとは見た目がまったく違うから、石という共通点に思い至らなかったのは仕方ないかもしれない。

意外にも読んでみて、とても面白かった。紹介される石の模様は、自然にできたとは思えないくらい魅力的だ。人間の文化との密接な関連も興味深い。過去には自然自体の造形力によると信じられた時代があったそうだ。新しく抽象絵画が脚光を浴びると、アートのような模様がもてはやされたという。美しい石をめぐる人間模様も、たくみに描かれている。

実は著者の山田さんの文章を読むのは初めてではない。僕が、東京郊外の国立市の小学生だった当時、隣町にコガネ山という雑木林があって、よく昆虫採集に出かけた。しかしその名の通り、カブトやクワガタを見つけることはできず、級友の間では、それらが豊富に採れるカブト山の存在が噂になっていた。僕はとうとうその山を見つけることはできなかったと思う。

それが心残りで、最近ようやく国分寺市にエックス山として残る雑木林が、当時噂された場所に近く、その山ではないかと思い当った。初めて訪ねると、不思議なことに夢に何度も出てきたあのカブト山とそっくりだ。検索すると、国分寺出身で同世代の山田さんが少年時代を回想する文章を読むことができた。平地の雑木林が「山」と呼ばれていたこと、周囲の山は姿を消しエックス山も一部だけになったことを知った。何より共感したのは、同世代の元昆虫少年として、今でも雑木林に入るときに生じる気持ちの高ぶりを描く文章だ。

「林を歩くと、体内に眠っていた何かが目を覚ますような、独特な感覚を覚える」