大井川通信

大井川あたりの事ども

『弱いつながり』 東浩紀 2014

新年からすがすがしい本をよんだ。昨年は新刊の『観光客の哲学』に出会って、だいぶ考えさせられて、とても役に立ったけれども、東浩紀は何年も前からこんなすっきりした文体を手に入れていたんだと感心する。なんのてらいも臭みもなく、新鮮で大切な知見を、過不足なく手渡すような文体。

東自身が書いているけれど、この文体は、書物やネットにはりつくことをやめて、旅をすること(身体の移動)に軸足を移したことの成果だと思う。

旅で身体を移動させて、固定された世界や記号の体制に、何より自分の人生に、リアルなノイズを導入すること。このことがもたらす希望については、『観光客の哲学』でより詳しく語られることになる。

大井川歩きは、車に頼らずに自宅から歩いて戻る「旅」の途中で、偶然に身をゆだねて、人や自然や歴史の断片と出会う試みだ。そこで生じたノイズを増幅させて、できればこの土地の新たな神話を立ち上げたいと思う。それを「観光地化」といってもいい。だから東の論旨に全面的に共感した。

実は昨年大学を卒業した長男が、卒業間近の読書会でレポートしたのがこの本だったという。良い本を選んだものだ。年末に帰省した時、親とは出かけたがらない彼に、移動だ、ノイズだ、とキーワードを連発して何とか連れ出し、弟の職場である介護施設筑豊の木工工房との間に「弱いつながり」をつけることができた。そのことでも、東浩紀には感謝しないといけない。