大井川通信

大井川あたりの事ども

富岡八幡宮宮司殺人事件(事件の現場2)

昨年末に、東京の有名神社で、姉の宮司を、元宮司の弟夫婦が待ち伏せして日本刀で刺殺し、自害するという凄惨な事件が世間を騒がした。

この事件は、元宮司のかつての豪遊等の報道で、由緒ある神社の経営の乱脈ぶりを明らかにした。しょせん世俗まみれなのか、と。僕なども、別の神社でも初詣のわずかの賽銭を出す気持ちが冷めてしまったところがある。しかし一方で、近親による日本刀での立ち回りや「怨霊としてたたり続ける」という元宮司の遺言からは、世俗とかけはなれた、どこかこの世ならぬ世界での出来事のように感じられたのも確かだ。

意外なことに、事件を起こした元宮司夫婦が、最近まで同じ市に住んでいたことを報道で知った。たまたま知り合いが、元宮司の行きつけの店に通っていて、そこの店主が家に招かれて日本刀を見せられたという話も聞いた。その住居は、僕が住む住宅団地より新しく、立地はやや不便だけれども広い敷地と高級なイメージで売り出したニュータウンの中にあった。海や漁港にも近く、釣り好きの元宮司には好ましい住まいだったのだろう。

今回の犯行の動機には諸説あるようだ。宮司を解任された積年の恨みに加え、昨年某八幡宮神社本庁を脱退して運営が姉の自由となり、いよいよ自分に復帰の目がなくなったこと。数億の退職金を使い果たし、昨年には神社からの仕送りが止められ、生活に行き詰まったこと。

ただ、僕でも東京から、森閑としたこの街に戻ってくると、置いてきぼりをくったような、なんともさみしい気持ちになることがある。まして東京で有名神社の宮司としてもてはやされ、人一倍贅沢な暮らしをしてきた彼は、日中には人気がないニュータウンの中で、とんでもない悪意と恨みをこじらせていったにちがいない。

その住宅団地の前を通ることは多いのだが、車を止めて、彼の住んでいたあたりを歩いてみた。街路樹を中心にしたロータリーに家が面していて、歩行専用の小道もあり、外国のようなゆったりした街並みである。しかし、コミュニティの掲示板には古いチラシが一枚張られているだけで、なんとなく街の風化が始まっている気配がした。