大井川通信

大井川あたりの事ども

ゲンゴロウの躍動

ゲンゴロウというと、開発によって生息できる環境が少なくなり絶滅寸前になったひ弱な昆虫、というイメージがあるかもしれない。しかし、ハイイロゲンゴロウだけは、別の種と思えるほどのたくましさがある。

まず、その泳ぎ方だ。舵の壊れた暴走モーターボートのように激しく左右に旋回しながら、かなりの長距離を泳ぐ。オタマジャクシや小魚にも遜色ない逃げ足である。活力の源泉である食欲もすさまじく、一緒に飼っていたシマゲンゴロウを平らげてしまった。多少の水質や環境の悪化も平気で、他の生き物が見当たらない田んぼでも泳いでいるし、都会の公園の池で暮らしていたりする。

何より驚くのは、その飛翔能力だ。水槽から逃亡されて気づいたのだが、彼らは他のゲンゴロウのように陸に上がることなく、水面から直接飛び立てる。まるで水上飛行機だ。ただし機能優先のためか、黄土色に黒い斑点がまばらにある保護色風の色合いで、外見の魅力は乏しい。また活力が有り余っているのか、夜中に水槽の中で鳴くような音をたてたりもする。まさに水陸空自在の、全環境型最強昆虫といっていい。

そんなわけで、大井川周辺の田んぼでは、今でも夏にはハイイロゲンゴロウの元気な姿を見ることができる。ゲンゴロウ界が、ますますハイイロ一強となっていくのは、仕方ないとはいえ寂しい気もするが。