大井川通信

大井川あたりの事ども

『クルマを捨ててこそ地方は蘇る』 藤井聡 2017

クルマ社会の問題点を、網羅的に、かんで含めるようにわかりやすく説いた本。視野の広さと分析のバランスの良さは、驚くほどだ。とくに地方都市において、人々のクルマ依存が、郊外化をもたらし、結果的に地域の劣化と人口流出をもたらすメカニズムを、あらゆる要因と因果関係にあたって説明しているのは見事だ。だからこそ、クルマ利用を抑えることで、地方を疲弊から救う道筋を、説得力をもって描き出すことができるのだろう。富山市京都市での事例の解説もわかりやすい。

大井川歩きは、自宅から歩ける範囲内の土地にかかわろう、という漠然とした思い付きにすぎないけれども、この本には、その利点を明確に説いている部分がある。クルマ依存者は、「鳥や虫の鳴き声を聞くこと」「道ばたに咲く花や土など、自然のにおいをかぐこと」「地域の人々と挨拶や話をする機会」が少ないことが統計的に示されている。触れるものを好きになるという「単純接触効果」から、クルマに依存しない者は「地域愛着」が強くなるが、反対にクルマ依存によって、地域愛着が薄くなり、コミュニティと自治は劣化してしまうことになる。著者の目線は、こんなささいな論点にまで及んでいるのだ。

著者は京都のラジオ局で、「交通まちづくりマーケティング(モビリティ・マネジメント)」の視点で、クルマ利用の見直しを発信する番組作りを何年もてがけている。一般の視聴者に理解しやすい問題点を明確なデータを示しながら伝える、という長年の取り組みが、この本の緻密さと分かりやすさにつながっているのだろう。

自動車産業や大型ショッピングセンター等の巨大な民間資本の論理によって、モータリゼーションと郊外化による地方の疲弊が進行してきた。それに対して、地方政府は大きなハンデを背負ってゲリラ戦を強いられている、という著者が示す構図は、新鮮で納得のいくものだ。このような状況では、自治体頼みの住民の姿勢は、事態を改善する役にはたたないだろう。地域の問題を文字通り「足元」から考えるうえで、バイブルとなりうる本だ。