大井川通信

大井川あたりの事ども

小心と怒り

少し前に姉から聞いた、ずいぶん前の実家のエピソード。

まだ父が生きている頃、台所で母が手にケガをした時のこと。包丁で誤って手を切ってしまい、血を流している母に向かって、父は動転して叱りつけるばかりで、何もできない。姉がタクシーを呼び、外科医に連れていき処置をしてもらって事なきを得ると、父はニコニコしていたそうだ。お父さんは気が小さくて、本当は心配なのに怒ることしかできないから、と姉がいう。

僕は驚いた。僕も自分の家族に対して、思い当ることがあったからだ。小心だから、心配ごとを受けとめきれずに、攻撃的にふるまってしまう。父親が嫌で、若いころに実家から遠く離れてしまった自分は、歳を経るごとに父親に似ていることを自覚することが多くなった。ただ、そとづらが良く身内には怒りっぽいというだけでなく、内面のメカニズムまで同じことにショックを受けたのだ。

しかし、驚いた理由はもう一つある。姉がそんな正確な分析を、たんたんと、むしろ懐かしそうに話していたことだ。姉はそういう父親を理解して、最後まで身近にいて、何くれと気づかって面倒を見ていた。本当に頭が下がる。

明後日で父が亡くなって十二年。