大井川通信

大井川あたりの事ども

老人ホーム「ひさの」を訪ねる

大井炭鉱坑口にお参りしたあと、下流の隣村まで足を伸ばす。ゆったりとして明るい集落の旧家で、住宅型有料老人ホーム「ひさの」をしている田中さんを訪ねる。田中さんは、原田さんのお店で以前から顔見知りだけれども、ご自宅に伺うのは初めてだ。

田中さんは東京の病院で看護師をしているときに、村瀬孝生さんの著書を読んで、これだと思い、宅老所よりあいを訪ねたという。4年前に実家を改修して、ご自分で「ひさの」を始めた。母屋の前の蔵を住居に改造しているが、よりあいと同じ建築事務所の手になるもので、魅力的な外観だ。田中さん自身は、近隣の大規模ニュータウンで育っていて、ここは祖父母の家だったという。

部屋数の多い立派な母屋には、六人のお年寄りが暮らしている。偶然だが、僕の職場の先輩を、昨年には看取ったことを知った。僕が村瀬さんの講演での印象に驚いた話をすると、笑って聞いてくれる。

昨年からニュータウンの再生に関わる集まりに参加しているが、不動産を受け継いだ若い世代が、地元に戻って、それを様々に活用してまちづくりに生かしている姿に出会うことになった。田中さんも、そうした人々と軌を一にしている。

ホオジロとヒバリのさえずりを聞きながら、川沿いの2キロの道のりを歩いて帰る。初めての家を訪ねたり、行きずりの人に声をかけたりするのはちょっと敷居が高い。車で乗り付けるのではなく、手間ひまかけて歩くと、そうした引け目が軽くなるのが不思議だ。