大井川通信

大井川あたりの事ども

ミロク山でアサギマダラに出会う

「ひさの」で知り合った大正3年生まれのHさんの生まれ育った村を再訪。

ミロク山の急な山道を息を切らしながら登ると、その先に大きな建物ぐらいの岩が露出していた。岩の前面には地蔵がならんでおり、少しくぼんだところに、江戸時代の元号の刻まれた古い石のホコラがすえられている。長く村人の信仰を集めてきたオダイシサマというのは、ここだろう。Hさんも、若いころには、お参りしたはずだ。旧姓を告げて、Hさんの健康を祈る。すると、山道の脇の白い花に、大柄な蝶が舞い降りてきたのに気づく。白黒のレース模様に赤みの入った羽根のアサギマダラだ。数千キロに及ぶ渡りの途中に出会うのは、この春初めてで、うれしくなる。

山頂はもう少し上なのだが、大岩の脇の斜面をロープを頼りによじのぼらないといけない。断念して降りてくる。集落まで戻ると、小さな土地で畑仕事をしているお年寄りがいる。声をかけると、Hさんのご実家の隣家のお嫁さんで、Hさんのこともご存じだった。ご先祖や村のことなど、興にのったのか、畑の隅の草花の中にちょこんと正座をして話してくださる。ご自分は都会の方からお嫁にきて、はじめはずいぶん淋しい思いをしたそうだ。

村社の境内には、ミロク山の石を祭壇のように置き集めた場所がある。それは、ただしくミロク山の方を向いている。今でも、そこで春に村の「五軒当番」が担当をしてオコモリ(お祭り)をしているそうだ。参拝しやすい場所に遥拝所を作るというのは、クロスミ様も同じなので、少なくとも近隣ではごく普通の発想なのだろう。