大井川通信

大井川あたりの事ども

『五日市憲法』 新井勝紘 2018

気づくと、憲法記念日だ。『五日市憲法』に関する新刊を買っていたので、読み通してみた。面白かった。五日市憲法については、学校で習った記憶がある。今では、小学校の社会科の教科書にも取り上げられている。

著者は、東京国分寺東京経済大学で、色川大吉ゼミに学んだ歴史家である。1968年にゼミの活動で五日市の土蔵調査に参加して、五日市憲法草案(1881)を発見し、卒論のテーマとする。若い著者がわずかな手がかりから、起草者の千葉卓三郎(1852-1883)の足跡をたどるプロセスはスリリングだ。僕は、研究とは程遠いが、地元を歩き、お年寄りの語りから、過去を手繰り寄せる試みをしているので、とても共感できた。

五日市憲法自体は、国会期成同盟という組織からの草案作成の呼びかけ(1880)に応じたものであり、東北出身の若き俊英千葉卓三郎が、知的な放浪の果てに、五日市の少数の有志との関わりの中で起草したことが明らかにされる。

著者は、五日市における民主運動の背景と伏流を強調するが、やはり、下からの「民衆憲法」というイメージとは背反する真相だ。そういうイメージ自体が、善かれ悪しかれ、1968年という発見年に象徴される一つの時代のイデオロギー内部のものであるように思われる。

大学時代、自由民権運動100年記念の集会で、色川大吉の話を聞いたことがある。東京経済大学は隣町にあったので、自分の大学でもないのによく出入りしていた。恩師の今村仁司先生のゼミにも参加させていただいて、思い出深い。「三多摩」人のアイデンティティを捨てきれない自分には、どこか懐かしい本だった。