大井川通信

大井川あたりの事ども

長崎港のクルーズ船

長崎の街の対岸のホテルから港を見下ろす絶景で、そこに異様なものが見えているのに驚いた。巨大クルーズ船だ。細長い長崎湾を埋め尽くすような勢いで、建造物として見ても、街のビル群を圧倒する巨大さだ。小さな街の路地に、不釣り合いに大きなゾウが入り込んでいる感じ。

今では年間200隻も入港しているそうだから、長崎市民にとっては見慣れた風景になっているのかもしれない。しかし、それもここ何年かの出来事のはずである。この異様な風景から、いくつか考えることができた。

かつて中国人観光客の「爆買い」が話題となったが、どこまでお金を落としてくれるかはともかくとして、この観光客の量は、観光地にとって間違いなく魅力だろうし、なくてはならないものになっていくだろう。これはとんでもないドーピングではないのか。

しかし日本経済は、従来からあまり人目に触れないところで、巨大貨物船やタンカーによる原材料や工業製品の圧倒的な輸出入によって支えられてきたわけである。観光だから、たまたま目に触れるようになっただけなのだ。その一部だけを目障りに思ってはいけないだろう。

しかも、やってくるのはモノではなく、ヒトである。彼らは何事かを身をもって体験し、それを持ち帰るだろう。トラブルもアクシデントも込みで。そこに何らかの可能性がある、いや、もはやそこにしか希望はないことを『観光客の哲学』という本は主張してはいなかったか。

しばらく目を離した隙に、巨大クルーズ船は、そそくさと姿を消してしまっていた。