大井川通信

大井川あたりの事ども

パルムドール受賞

カンヌ映画祭で、是枝裕和監督の作品が最高賞を受賞したそうだ。特別に映画好きでもなく、もちろん監督とは一面識もない自分が、そのことでちょっと心がざわついてしまう、というのが我ながらおかしい。

ある時、是枝監督が、同じ高校の一学年後輩だったことを知ったのだ。それ以来、映画についての話題の時には、実は是枝監督は・・・と、つい自慢してしまったりする。自慢だから、もちろん気分がいい。と同時に、同じあの校舎を出発点としながら、平々凡々の人生を送っている我が身と引き比べて、内心、嫉妬の感情がわきおこりもする。監督は順調に業績をつんでいるから、華々しいニュースが届くたびに、正負両面の感情で心がざわつくのだ。(笑、と文末につけたいところ)

他者といっしょであることに安心したり、得意になったり。他者に差をつけることが快感だったり、差をつけられることで落胆したり。難しく言うと、「同一化」と「差異化」というのだろうか、この二つの原理の間でふらつくのは、人間という生き物の成り立ちから考えて、やむを得ないことだと思う。

どうしようもないことだから、宗教や格言が、自分と他人と比べるな、とすすめ、哲学や倫理が、仲間内でない他人を迎え入れろ、と命ずるのだろう。

僕の母校は、武蔵野にある都立高校だ。玉川上水が近く、当時は、周囲に畑や雑木林も残っていた。故郷から遠くはなれて生活しているから、同窓生に接する機会はまずない。それが、数年前、仕事上の懇親会で隣に座った地元の歯科医が、偶然にも二学年下の同窓生だったのだ。いっしょに校歌を歌い、気持ちよく酔った。

「林を出でて、林に入り、道尽きて、また道あり・・・」

その時のことを思い出すと、後輩を素直な気持ちでお祝いできる気がする。是枝監督、パルムドール受賞、おめでとうございます。