大井川通信

大井川あたりの事ども

冬の麦の根は地獄の底まで伸びている

大井川歩きなどと称して農耕地を歩くことも多いが、実は農業については何も知らない。そもそも自然の中でも、鳥や虫に比べて、植物の知識はまったく乏しいのだ。子どもの頃、小学館の学習図鑑でいろいろな知識を仕入れたけれども、植物の図鑑だけはなんとなく女子向きであるような気がして、敬遠していたツケが回ってきているようだ。

知り合いの種紡ぎ村の原田さんたちの農作業も見て見ぬふりをしていて、何年か前に一度田植えを手伝ったくらいである。この土地で、無理をせずに自分のできることを続けていく、少しずつ広げていくという方針があるから、仕方ないこととは思っている。農作業や散歩をするお年寄りだけではなく、施設に入所する人からも聞き書きをしてみたいと思いついたのは何年も前だが、最近縁あってようやくそれが実現した。トボトボ歩くペースで、物事はゆっくりすすんでいく。

以前つくった手作り絵本の主人公「ひろちゃん」こと、ひろつぐさんの家にたちよる機会が、この頃おおくなった。ひろつぐさんは、元高校の国語教師だけれども、盆栽や魚釣りが趣味で、裏の山では、たくさんの野菜を作り、鶏を飼い、養蜂までしているスーパーマンだ。ふと、いつか覚悟を決めて弟子入りして、いろいろ教えてもらいたいという気持ちが芽生える。文弱の自分には、はじめてのことだ。

近所を歩き回るようになって、はじめて麦秋ということを覚えた。今がその季節だ。畑には小麦色の麦がきれいに広がっている。まさに収穫の秋という感じ。しかし麦のない畑もある。そもそも麦はいつまかれたのだろう。いろいろな疑問がわいてきて、あかね書房の科学のアルバムシリーズで『ムギの一生』を読んでみた。

世界で作られる穀物は、ムギとイネ、そしてトウモロコシ。イネは高い気温と水分が必要だが、ムギは乾燥を好み、冬の寒さがないと成長しない。ムギは粉にして食べるが、イネは粒のまま食べる。言われればなるほどと思えることがわかりやすく書いてあって、面白かった。

タイトルの言葉は、東北出身の著者が伝え聞いていたもの。今年の秋には種まきやムギ踏み、そしてムギの冬越しの姿にも注目してみることにしよう。