大井川通信

大井川あたりの事ども

魔術の再生

見田宗介は、近著『現代社会はどこに向かうか』の中で、脱高度成長期の若者の精神変容のデータを扱っている。そこで目を引くのが、「お守り・お札を信じる」、「あの世、来世を信じる」、「奇跡を信じる」などの一見非合理的な回答のポイントが、1973年からの40年間で大幅に伸びていることである。

このことは、僕にも体感的によくわかる。僕が子供の頃は、科学技術への信頼がきわめて強く、神仏への信仰を圧倒している時代だった。おそらく敗戦体験とマルクス主義の洗礼の影響にもよるのだろうが、父親は神道を毛嫌いしていて、家族で初詣すらしたことがなかった。そんな家庭に育った自分が、今では、地域の神々にお参りしてそのいわれを調べるのを何よりの楽しみにしている。神々は、意外なほど強い復元力をもつのだ。

見田は、この傾向を、近代の合理化の圧力が減退して、ウェーバーのいう「脱魔術化」が逆転し、魔術が再生しているのだと鮮やかに分析している。ただ、魔術というと少し大げさに聞こえるかもしれない。風景への驚き、暗闇での恐れ、未来へのあこがれ、背後の気配、等々の細やかで異質なリアリティが、再び人々の意識に浮上してきている、というのが真相ではないだろうか。