大井川通信

大井川あたりの事ども

再び路上へ

台風のあと、梅雨前線による大雨が降り、朝晩は肌寒さを感じるような日が続いた。今朝は久しぶりに晴れ上がり、気温も上がるという予報だったので、日差しが強くなる前に家を出た。この夏初めてのクマゼミの声が聞こえる。

よく、ストリートだとか、路上だとかが言われる。そこは、若者が新しい文化を生み出し、新たな抵抗や闘争を行う自由の場所であると持ち上げられる。しかし、田舎のあぜ道や集落の路地だって、立派な路上なのだ。

そこには、政治も文化もあり、歴史も闘争もある。聞き耳を立て、すばやく身をこなし、言葉を駆使すれば、自由や創造を味わうこともできる。そして何より、無垢であることが大切だ。人々に、自然に、歴史の痕跡に対して、むき出しの好奇心で身を開くこと。

今朝も、足の向くまま、平井の集落を歩く。新しい家なのに、二階の屋根の妻に、こて絵というのだろうか、美しい文様を浮き彫りにした家を発見した。たまたま裏口に顔を出したお年寄りに、立派ですね、と声をかける。90歳になるという男性は、徐々に警戒を解いて、こちらの質問にも答えてくれる。むしろ僕の方が、路上で聞き覚えた名前や知識がすぐに出てこなくてもどかしい。

街道沿いに座頭さんがおりましたよね。そうでした、荒木勝心さん。以前は平井に住んでいたそうですが。へえ、このちかくだったのですか。僕は息子さんのお嫁さんから聞き取りをしたことがあるのです。遺品の琵琶があるそうです。

やりとりをしながら、この土地でのいろいろな宿題を思い出す。平井といえば、雨ごいの笠仏(かさぼとけ)だ。ご主人は、笠仏のお祭りには参加したことはなかったようだが、その存在はご存知だった。つい、笠仏の手作り絵本を制作中であると吹聴してしまう。すっかりさぼっていたが、こちらも早く仕上げようと思った。