大井川通信

大井川あたりの事ども

影絵の世界

母親の義弟にあたる叔父から聞いた話。

僕の父親が、勤務先のミシン会社の同僚だった叔父を1年間じっくり観察した後で、この人なら大丈夫と、母の妹の結婚相手に紹介したのだという。勝気の叔母は、私は家のある人でないと結婚しないと言ったそうだ。(ひょっとすると、断る口実だったかもしれない)しかし叔父は、しゃかりきになって金策し土地を探して家を建て、なんとか結婚にこぎつける。東京オリンピックの翌年というから、昭和40年のことだ。
文学青年あがりで、浮世離れしていた父だが、親戚づきあいなど俗事に妙にマメなところがあった。考えてみれば、父親自身、義兄から母親を紹介されている。恩送り、ということだろうか。しかし世話をした以上、責任が発生する。両親も、この姉夫婦を、家の増築費用を借りるなど頼りにしている様子だった。一方、妹夫婦に対しては、何かと相談に乗っているふうだった。
今では考えられないような、世話をやいたり、やかれたりの人間関係。子供心に見つめていた両親や叔父叔母の濃密なふるまいは、今では遠く、影絵のようだ。