大井川通信

大井川あたりの事ども

千灯明と「がめの葉饅頭」

ハツヨさんの故郷、平等寺地蔵堂で千灯明があると聞いたので、かけつける。まだ明るかったので、ハツヨさんの生家の脇の路地を上り、高台のため池ごしに、ミロク山の姿に手をあわせる。僕は、この村を舞台にしてハツヨさんの生い立ちを絵本にするつもりだ。そのためには、この土地に心とからだを開き、十分になじませないといけない。振り返ると、低い大地ごしにコノミ山が大きく見える。そこは大井川歩きのフィールドなので、地続きだと感じて、ちょっと安心する。

地蔵堂は村の奥にあり、そこへの小道と小川の川岸に手作りの灯明が並んでいる。灯明の列は石段を上って、地蔵堂に導いてくれる。促されるままに靴をぬいで明るい堂内にお参りする。そこには、何人か世話役のお年寄りがいて、ハツヨさんの名前を出すと、(大正3年生まれのハツヨさんからは一回り以上若い人たちだろうが)みなさんご存知だった。ハツヨさんの盆歌の録音を流すと、昭和4年生まれの人と昭和11年生まれの人が、すぐに声を重ねて歌い始める。青年たちが初盆の家に回って歌った平等寺の盆歌で、ずいぶん前に歌われなくなったものらしい。

ハツヨさんの姪にあたる人が、おばさんの声が聞けてうれしいと言う。参詣の人に配るお菓子といっしょに、姪の人が作った昔ながらの「がめの葉饅頭」(かしわ餅)をことづかった。帰りには、夕闇が濃くなって、足もとの灯明の列がいっそう美しい。

少し遅かったが、せっかくなので、帰り道に車で多礼のホームに寄る。ハツヨさんはまだ茶の間で起きていて、夜勤の好さんといっしょに土産話を聞いてもらいながら、三人で甘い饅頭を食べる。