大井川通信

大井川あたりの事ども

『下流老人』 藤田孝典 2015

三年前のベストセラー。今回初めて読んできたのだが、出版後、この本が訴える情報について、ある程度一般化されてきたためか、ややインパクトが薄れるところがあったかもしれない。しかし、老人予備軍としては、いちいち身につまされて、いろいろ勉強になることが多かった。年齢もそうだが、様々な統計データというのは、客観的に眺めている分にはいいが、自分がある数値を持って、グラフや図表のどこか一点にくぎ付けにされているというのは、どうにも居心地が悪い。それに一喜一憂してしまう自分がいる。

著者は、日本社会の中に、貧困問題から目をそらさせるようなメカニズムが働いているという。だから、貧困は、社会問題としてではなく、個人の自己責任や甘えの問題として放置され、または個人をたたくことで事足りるとされてきた。そうして、今になって、老人だけでなく、若者や障害者や子どもの貧困の問題がそれぞれ社会に突き付けられるようになってきたが、それぞれが限られた牌を奪い合うのではなく、貧困の連鎖の問題として、正面からそれを扱わなければいけないという。

一般に高齢者は、若者に対して、既得権益をもつ者と考えられている。しかし、この本によると、高齢者も二極化されており、多くの高齢者は、他の社会的な弱者を貧困へと突き落とす動きの中に巻き込まれている。

経済的にだけ考えるならば、誰もがゆううつにならざるをえない現状だ。著者がいう「関係の貧困」(を関係の豊かさに変える)という視点にたったときに、とりあえず自分の足元から始められることが見えてくるように思う。