大井川通信

大井川あたりの事ども

榜示(ぼうじ)とクスの木

ようやく涼しい日が続くようになってきた。今年は、7月から連日の猛暑が続き、8月のお盆がすぎても、暑さが手をゆるめなかった。35度超が当たり前だった。足首を痛めるというアクシデントも加わり、しばらく歩いていなかったのだが、今朝久しぶりに、住宅街の坂を下った。

田んぼが本当にきれいだ。一枚一枚の田んぼが、イネの種類や成長の速度の違いからか、微妙に色の濃さが違っている。青のグラデーションがまばゆい。

大井川の小さな堤を歩くと、和歌神社、薬師堂、水神様の姿が見える。堤の幅が広くなる場所は、大井炭鉱の石炭を運ぶトラックが、橋を渡ってそこから堤を通ったから、と教えてもらったことがある。

川沿いで何羽かのシラサギの姿を見た後、悠然と飛ぶ一羽のアオサギの大きさに目を奪われる。まるで翼竜プテラノドンだ。鳥は恐竜の子孫だと言われいるのが、なるほどと思える姿だ。

中屋敷と枡丸の集落の中を歩いたあと、街道沿いの観音堂とクスの大木のところまで歩いて、折り返した。ここには、榜示(ぼうじ)という地名が残っている。小字名は、由来のよくわからないものがほとんどだが、この地名ばかりは、柳田国男の本でその意味を知ることができた。

 

村の境には以前も標木を立て、または天然の樹木をこの目的に利用していた。これを榜示といい、その場所を榜示処(ぼうじど)といった。(「地名の研究」1936)

 

通勤で街道を車で走る時には、一瞬で通りすぎてしまう場所だが、実際に歩くと、ここは確かに村の境だと実感する。

帰り道、街道脇の田んぼにおりて、しゃがんで浅い水たまりをのぞいてみる。目がなれてくると、あちこちで泥をにごして泳ぎ回る小さな姿を見つけることができた。10年以上前から、ハイイロゲンゴロウの生息を確認している場所なのだ。夏の終わりに、ようやく彼らの元気な姿を見つけて、ほっとする。