大井川通信

大井川あたりの事ども

ナガサキアゲハの幻惑

黒いアゲハが優雅に飛ぶ姿には目を奪われるが、残念ながら種類を見分けることができない、と以前に書いた。カモ類の識別ができないのと同じで、見かけがどれも似ているのだ。しかし、いつまでそんなことではすまされまいと、わかりやすい特徴から頭に入れて挑戦してみる気になっている。

アゲハの左右の後ろばねには、尾のように突き出た「尾状突起」があって、かなり目立つ。それがないのがナガサキアゲハ、とまず覚える。

すると、散歩中、尾がなく丸い後ろばねのアゲハが、林のなかを連れだって飛んでいるのに出会った。白い紋がめだつ個体を、黒一色の個体がピタリと追いかけている。後で調べると、前がメス、後がオスとわかった。手が届きそうなくらいの木立の枝の間を、器用にぬうように飛んでいく。この林は、大小のジョロウグモがあちこちに巣をはっている。よくつかまらないものだと感心する。

彼と彼女を追って、狭い抜け道に迷い込むと、真正面の低い枝に、また別のナガサキアゲハが、左右に羽をひろげてとまっているのに出くわした。前ばねの根元には赤い紋があり、はね全体はうっすら透けているようだ。後ろばねは濃く、くっきりした白い紋が並んでいる。美しいコウモリのようで、近づいても動く気配がない。

何かの暗示を受けたように、僕も林の中で足がとまってしまった。