大井川通信

大井川あたりの事ども

ある経営者の信条

次男は、特別支援学校を卒業して、昨年春からある介護施設に勤務している。グループ会社を統括する社長は、地元では有名な起業家だ。入社式には妻が参観したのだが、隣に座った社長が気さくに声をかけてくれて、自社を好意的に取材しているビジネス書を直接もらったという。

民間企業だから、毀誉褒貶はもちろんある。ただ、いろいろハンデがある次男が、正社員としてなんとか一年半働くことができているのは、親としてありがたい。たたき上げの経営者だから、商売人としての自身の哲学が前面に出ている社風となっていて、息子が月一回参加する職員会議の資料の一枚目は、社長自ら書いたレジュメだ。

先月の資料を見ると、「終戦記念日」の項目があって、原爆や戦争での死者数を取り上げ、「この血と涙と悲しみを人類は絶対に忘れてはいけない!」と書かれている。戦前に生まれて、戦後の混乱期を生き抜いた体験からでてきた言葉だろう。標榜する「社会貢献」も、実際に社会の悲惨を目の当たりにしてきたところに根差しているような気がする。商売第一で保守政党支持とはいえ、やわな理想主義では敵わない性根の座り方を感じる。

個人主義マネーゲームの知識と経験しかもたないスマートな経営者が、世の中の中心を担うようになるにつれて、社会はさらに確実に変質していくのだろう。