大井川通信

大井川あたりの事ども

クロスミ様とアミダ様

久しぶりに、クロスミ様にお参りしようと思って、朝一番で近所の里山を目指す。数年前に、ミカン畑がソーラー発電に変わってしまってから、山道にトラックが入らなくなってしまったために雑草が道を覆い隠している。イノシシもこわい。あえなく断念して降りはじめると、下からご夫婦が登ってくるのに会う。10年前に、初めてクロスミ様の存在を教えてくれたり、自宅の裏山の古墳を案内してくれたりしたマツシゲさんだ。今でも毎日お参りしているというので、「渡りに船」とばかりに後からついて登る。

ご夫婦は、クロスミ様のホコラの前に並んで、きちっとお参りをする。僕はそのうしろでぎこちなく頭を下げる。山上で大井に戻るご夫婦を別れて、僕はモチヤマ側の急な山道を降りる。クロスミ様はモチヤマ村の神様だから、こちらが正式な参道だ。しかし、こちらもかなり荒れている。村人の高齢化によって、お世話をする人が急速に減っているのだろう。江戸時代の末に、疫病から村を守ったと伝えられるクロスミ様も、大井村の戦勝祈願のヒラトモ様と同じように、やがては忘れられていく運命にあるのだ。

ようやく細い山道を降り切って、モチヤマの集落の中を歩く。あちこちに彼岸花が美しい。小高い場所のお堂に、木造の阿弥陀仏の座像がまつられている。お堂に朝日がさしこんで、平安の末期から千年近く村を守ってきた阿弥陀様を、木製の格子ごしに間近く拝する。虫食いで傷んだ大きな手のひらが、慈悲深く差し出されていて、不信心な僕も思わず南無阿弥陀仏の言葉をとなえる。しかし、こんな信仰本位の、ある意味無防備な環境が、近年多発する文化財の窃盗の温床にもなっているのだろう。

モチヤマを離れて、県道を大井へと戻る。右手の大井ダムは、もっと大規模な給水施設の完成によって水道用貯水池としての役割を終えて、干からびた湖底をさらしている。左手の里山は、ソーラー発電所の開発のために、無残に赤茶けた山肌をさらしている。目には青空と彼岸花