大井川通信

大井川あたりの事ども

聖地巡礼巻き戻し篇 (その1)

家族旅行で小豆島に出かけた。海岸沿いのホテルに泊まって、ロビーの観光案内のチラシをあさっていると、テレビアニメの舞台となった場所を示した地図が置かれている。いわゆる「聖地巡礼」用のものだが、聞いたことのないアニメだ。

からかい上手の高木さん』という漫画で、アニメ化は今年になってからのようだ。中学生の男女のラブコメらしい。聖地巡礼には興味があったので、地図をもらって、翌朝ホテルの周囲を歩いてみることにした。アニメも見ないうちに聖地巡礼をするのは順番が逆のようで気が引けるが、高名な文学作品の舞台や歴史的な遺跡などは、作品を読んでない人や歴史に詳しくない人も、とりあえず話のタネにと感心しながら見て回るだろう。それと同じだと、自分を納得させる。

早朝目を覚まして、まだ人通りの少ない街を歩く。地図には、アニメのシーンと簡単な解説がついている。それを見て、想像を膨らませる。二人が偶然顔を合わせた書店。テスト勉強をした図書館。通学路の橋。二人の通う中学校。しだいに気持ちが乗ってきて、できるだけ回ってみようと決意する。

アニメでは取り上げられていないが、中学の裏手の丘に富岡八幡という神社があり、その参道の周囲の急な傾斜地には、石垣で築かれた区画が、小さな棚田のように何百も段々に作られていて壮観だ。「座敷」と呼ばれて、下の広場で行われる祭礼の時の氏子の見物用に今も使われているという。参道の途中の見晴らしでは、映画『寅さん』の撮影も行われたらしい。

港や運河に近く、土地が狭いためか、古い家屋が密集した路地が残っていて、そこを歩くのが面白い。猫が多くて、路地の瓦屋根で休んでいたりする。大井川歩きの要領で、挨拶を交わしたおばあさんに、「座敷」のことを尋ねる。今でもお祭りで使われているが、使える集落や家が決まっていて、彼女は座ったことはないそうだ。

二時間かけて、歩けるところはすべて見た。実際の中学生の生活圏と重なるところに好感がもてる。聖地巡礼者らしき若い男女一組が、自転車で回っていて、行く先々で顔を合わせるのがちょっと気恥ずかしかった。

やや遠方にあるトンネルと神社は、ホテルを出たあと、レンタカーで回る。二人が雨宿りをしたり、背比べをした神社は、とくに重要な「聖地」らしい。高木さんの顔を描いた絵馬などがちらほら吊るされている。「高木さんに負けない魅力的な島でした!」の言葉に、なぜかほろっとしてしまう。彼らは、作品の世界に少しでも近づき、キャラクターたちに語りかけようと、この土地を訪れるのだろう。

さあ、僕もアニメをはやく観なければ。