大井川通信

大井川あたりの事ども

『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』 金谷武洋 2014

最近文庫化されたので手に取る。タイトルだけ見ると、いろいろ突っ込みを入れたくなって、読むのをためらってしまいそうになるが、本の中身はたいしたものだ。

カナダの大学で25年間、日本語教育と日本語の研究を行ったきた著者が、現場で考え、実地で体験してきたこと(だけ)をもとに書かれている。体験に基づく思想のエッセンスが提示されているから、わかりやすいのと同時に、とても清潔な印象を受ける。頭でこね上げた理屈や利害にもとづく主張ではまったくないのだ。

日本語の構造にひたすら目を注いで、他の言語との比較に心を砕いてきた認識の成果がここにはある。目を開かせられることばかりだ。哲学的であると同時に、語学についての実践的な指南にもなっている。

以前から著者の名前は時々目にしていたが、『中動態の世界』の註で触れてあったので、読みたいと思っていた。しかし、どうなのだろう。『中動態の世界』は一般の読書界でも評判となった哲学書だけれども、おそらくこの世界を理解するための思考のすぐれた道具の提供という意味で、この本の足元にも及ばないだろう。まして、この本は比較にならないほど読みやすいのだから。

「読む」とか「考える」とか「知識」ということの既成観念や思い込みを、ぐらつかさせられるような気持ちにもなる。