大井川通信

大井川あたりの事ども

「祝辞」 NHK 土曜ドラマ 1971

結婚式のスピーチで思い出すのは、子どものころ観たあるドラマだ。当時チャンネル権は父親が掌握していたから、父親から公認されたドラマ視聴だったのだろう。それで僕の記憶に残っているのは、妙に大人びた番組ばかりということになる。

記憶では、「テーブルスピーチ」という題名だった。有島一郎が演じる気の弱そうな初老の会社員が、結婚式のスピーチを頼まれ、必死で準備するが、当日の式で直前にスピーチした人に偶然まったく同じ話を先にいわれてしまうという展開だった。

言葉につまった主人公が、「本日は晴天なり、本日は晴天なり」と口走ってしまうシーンをはっきりと覚えている。

こういう人生の些事に簡単にアプローチできるのが、ネット時代の恐ろしさだ。調べると、実際には「祝辞」という題名で、1971年の6月12日20時から一時間放送されている。僕が小学校4年生の時だ。「寅さん」の山田洋次の脚本である。

もしやと思って、その日の日記帳を取り出して開いたが、「ぼくのほしいもの 1ぼうえんきょう 2ヘルクレスかぶと虫 3大ばん」としか書かれていない。50年近くたっても、天文や虫や古銭をネタに日記を書いていようとは、子どもの僕には想像もできないことだろう。

「祝辞」は、1985年に映画としてリメイクされている。その映画では、主人公の財津一郎は言葉に窮して沈黙するだけで、「本日は晴天なり」のセリフはなかったようだ。あのセリフのシーンは、幻なのだろうか。