大井川通信

大井川あたりの事ども

宮田さんの宿題

宮田さんはケーキをとりわけると顔を上げて、それじゃあなたに宿題を出します、と言い出した。僕が、こんど一人でゆっくり話に来ますと言ったからだろう。宮田さんからの宿題はこんな内容だった。

明治に入って、西洋の美術が入ってきて、遠近法等の様々な技法が移入された。おそらくそれとともに作品を展示して見せる、という考えも導入されたのだろうが、その関連が意外にはっきりしていない。そのつながりがわかったら、教えてほしい。

宮田さんは、ある地方都市の街道沿いで、実家を改造したギャラリー兼ケーキ屋をやっている。喫茶スペースを兼ねた小さなギャラリーで、精力的に現代美術の展示をおこなったきた。ここ一年ばかりは体調を崩して、新しい企画はできてないという。

宮田さんのお母さんはしばらく前に亡くなったが、お母さんの残した手習いの習字のことを、以前から宮田さんは考えていた。こんどそれを展示したいのだが、もともと発表を予定した作品ではない。「展示」についての考えも整理する必要がある。

さきほどの宿題も、学術的な関心からではなく、そんな実際上の必要からでたものだった。たんに文献を調べてほしいということではないはずだ。

宮田さんの焼くケーキは、彼の風貌からは想像できないくらい、とびきり美味しい。我が家の次男が小さい頃に食べて、それ以来チーズケーキ好きになったくらいだ。次男へのお土産のケーキを買って、お店をあとにする。