大井川通信

大井川あたりの事ども

写真家藤原新也の話を聞く

世界遺産沖ノ島の写真展で、神社の宝物館に藤原新也が来館した。僕には、1983年の『東京漂流』のベストセラーで懐かしい名前。トークイベントでの藤原さんは、小柄でお洒落な老人といった風情だ。

古代人は眼で決めていたはずだから、写真家と共通している。祭祀にふさわしいいい岩というのは一目でわかる。藤原さんは、自分の眼の鑑識によって、古代祭祀の在り方についても学説に堂々と異論をぶつけていた。

自分の写真は、自分が見たとおりの再現を目指している。現在は加工技術が発達して、現実から遠ざかる作品があるが、それでは写真が弱くなってしまう。

ところで、藤原さんは、安田純平氏と会ったばかりだという。自己責任論に批判的な藤原さんが、ある右翼の青年相手に話したという内容を紹介してくれた。「もし日本が中国に占領されて、あなたの家族が虐殺されたらどう思う」「嫌です」「もしそのとき外国のジャーナリストが、虐殺の事実を海外に報道したらどう思う」「感謝します」「安田純平のしているのは、そういうことなんだよ」

世界中の多くの現実と長年わたりあってきた写真家の目と言葉には、重みと説得力があった。

僕は、大井川流域という限られた場所を掘り下げることで、藤原さんのような目と言葉を獲得できるだろうか。少なくともそれを目指さなくては。