大井川通信

大井川あたりの事ども

鬼女が刀を振り回して橋を渡る(事件の現場6)

東京深川の富岡八幡宮にお参りした。昨年の12月7日に、現宮司の姉が元宮司である弟に刺殺されるという事件が起きた場所である。犯人である元宮司夫婦が、神社を解任された後5年ほど住んでいたのが、僕と同じ市内の近隣の住宅街だったことは前に書いた。

事件当夜、神社の境内のはずれにある自宅に帰宅した宮司を、待ち伏せしていた元宮司が切り殺す。元宮司の妻は、傷を負った運転手を100メートルほど追跡し、スーパーの前で切りつけるが止めを刺ささずに引き上げたという。そのとき「お前だけは許してやる」という女の声が聞こえたそうだ。

妻は現場に戻ると、目的を達成した夫によって殺害され、男は自らの心臓を刺して自殺した。おそらく覚悟の心中だったのだろう。

今回訪問して、事件現場の宮司の家が見当たらない。豪華だと批判を受けていた新築の家である。事件当時の写真と比較して、その家が撤去されて平地(参拝者駐車場の一部?)になっていることに後から気づいた。事件の記憶を早く拭い去りたい神社側の措置だろうが、思い切ったことをするものだ。

しかし何より驚いたのは、事件の現場のすぐわきに、赤く塗られた小さな鉄橋「八幡橋」がかかっていたことだ。この橋は明治11年に完成した最初の国産の鉄橋で、昭和4年に現在地に移転された。重要文化財だから橋マニアには有名な橋で、僕も写真では見たことがあった。

宮司の妻は、この橋を渡って逃げる運転手を追いかけ、襲撃したあと自ら死を覚悟しつつ、橋を渡って神社に戻ったことになる。往復とも血の付いた日本刀を携えて。

 境内では、釣り好きの元宮司が考案したという「釣行安全大漁祈願」という釣り針入りのお守りが今でも売られていた。