大井川通信

大井川あたりの事ども

森で招く赤い人影の恐怖

毎日、通勤の車で森の中の道を走っている。道の両側の草が刈られたので、森の中が見とおせるようになった。暗い森では、雑草も茂らないのだ。

12月も半ばを過ぎて、森の中のあちこちに赤い人影のようなものが立ちすくんでいるのに気づいた。暗い森の中で、光が差し込んだ場所では、それは驚くほど鮮やかな赤だ。おそらくハゼだろう。

人の背丈ほどの高さで、紅葉した葉をぎっしり身にまとっている姿は、派手な衣装を着た人間が背伸びをしたり、身をかがめたり、しゃがみこんだりしている様子に見える。風が吹くと、いっせいにおいでおいでと手招きするようだ。

諸星大二郎の漫画の中に、「人似草」という人間そっくりの植物に狂わされた男の物語があった。人似草はおそらく諸星の創作だろう。埋められた死体から生えた植物が、死人そっくりの姿になるという話だったと思う。

ハゼの赤は、少し季節を外れた紅葉にすぎないのだろうけれども、森の中で何かの生き血を吸っているように不気味に見えた。