大井川通信

大井川あたりの事ども

『想像力のテキスト』 山口タオ(文)津川シンスケ(絵) 2003

ずいぶん前に図書館の新刊コーナーで借りて読んで、これは手元に置いておきたいと購入したもの。その時のカンは当たっていて、読み直すたびに啓発される。

60頁のうち、ほとんどが絵を使った解説になっている。実際の世界の広さや地球環境の姿を、具体的なイメージとしてつかむためのワークブックのような本だ。

たとえば、人間が体長5ミリのアリだったとしたら、地球の表面積はどのくらいになるのか。およそ東京都の1.5倍くらいの面積となる。これにはさすがに地球は広いという感じがする。

地球の表面積を、学校のグラウンドくらいに縮めたときに、大気や地殻の厚みはどのくらいなのか。それぞれわずか8センチ程度になってしまう。空は思ったよりずっと低く、大地は薄いものなのだ。

人間の通常の尺度ではあまりに大きくて想像しづらいものを、アリとかグラウンドなどの身近なものの大きさをてがかりにイメージしようという思考実験だ。もっとも、アリを見たことがなければ、このイメージ作りも中途半端に終わるだろう。近頃、アリを見る機会が減ったような気がする。アリを知らない子どもたちもすでに登場しているのかもしれない。

地元を歩いて生活空間や自然にかんする感覚をいくら研ぎ澄ませても到達することのできない認識を、この本は与えてくれる。僕たちは、時には自分たちの実感を知識によって補正する必要があるのだろう。

たとえば、鳥について、こんなことを考える。

昔の人は、ホトトギスの鳴き声と季節感にはとても敏感だったろう。平安時代の貴族は初音を争って楽しんだというし、江戸時代には「目に青葉山ホトトギス初ガツオ」という句も読まれている。しかしホトトギスが一年の半分の間、遠い東南アジアにいて海を越えて暮らしていることは、想像もできなかったはずだ。

それどころか、身近な鳥たちの大半が渡り鳥であり、当たり前に異国と往復していることも知らなかっただろう。「科学的な知識」は、日常の思ってもみない真実の姿を教えてくれることがある。