大井川通信

大井川あたりの事ども

宇宙人の頭骨(ヒラタブンブク)と諸星大二郎さん

職場が海の近くなので、昼休みにビーチコーミングをすることがある。僕の歩く浜辺では、あまり貝は多くない。それでいつのまにか、ウニの殻を集めるようになった。

浜辺に打ち上げられたウニのカラは、もちろん棘などはすっかりとれている。真中に丸い穴の開いたお饅頭のようで、バフンウニは黄緑色、ムラサキウニは紫色できれいだ。しかし、ウニにはもっと変わり種がいる。名前も奇妙だが、見た目も相当変わっている。

一つは、カシパンウニ。平たい菓子パンかビスケットのような形で、白くて薄い殻には、真中に花びらのような模様が入っている。壊れやすく、浜辺で欠けていないものを拾うことはほとんどない。

もう一つは、ブンブクチャガマ。昔話の分福茶釜の狸に似ていることからの命名のようだ。前後の向きのあるウニで、海底ではかなりの速度で前進するらしい。僕の歩く浜辺では、ヒラタブンブクという種類の殻が、たまに打ちあがるときがある。

初めこれを見つけた職場の同僚は、宇宙人の頭骨だと騒いでいた。5センチ程度だが、確かに頭蓋骨みたいで、真中には宇宙人の全身のような奇妙な模様が入っており、裏には小さな穴が無数に空いている。なんとも不気味だが、僕は気に入って、かなりの数を集めることができた。

漫画家の諸星大二郎さんに会えることがわかったとき、僕の「積極奇異」なる性格が発動して、この奇妙な殻を諸星さんにプレゼントしようと思いついた。昔雑誌で諸星さんの仕事場が紹介されたときに、風変りなもののコレクションがあったように記憶していたからだ。何より彼の漫画には、奇妙な造形物があふれている。

100円ショップで小さなケースと綿を買ってきて、コレクションからサイズのあう美品を選ぶ。テプラで名前と採集地をシールに印刷してフタにはりつけると、立派な標本になった。旅先のお土産としても邪魔にならない大きさだ、訪問地の海で実際に採取されたというのもいいのではないか、と自画自賛する。

諸星さんとの食事会の時に、僕はその小さなケースを手渡すことができた。諸星さんは、僕の説明を聞くと、いったんそれを取り出してながめてから、カバンにおさめた。仕事場のコレクションに加えてもらえるなら、ファンとしてこれ以上の喜びはない。