大井川通信

大井川あたりの事ども

駅弁の悦楽と失望

旅を楽しむ余裕がないから、各地の駅弁を食べ歩いているわけでもない。半額弁当に血道をあげる人間が、スーパーの駅弁祭りとかでお弁当の最高峰である高額駅弁においそれと手をだせるわけがない。

では、なぜ駅弁なのか。昔、食玩(菓子に添付された玩具)に夢中になっていたころ、駅弁シリーズというのがあって、名物の駅弁に外見も中身もそっくりな小さなサンプルを集めたことがあった。しかしこれだけなら、食玩コレクションの一部というにすぎない。

駅弁には、器に特徴があって再利用できるものがある。高崎の「だるま弁当」は、真っ赤なだるまの容器。新潟の「雪だるま弁当」は、白い雪だるま。神戸の「ひっぱりだこ飯」は、タコつぼ型の陶器。こうした駅弁は、食玩のモチーフにもなりやすい。

そこで、本物の駅弁の容器と、食玩のミニチュアとをセットで集めることがひらめいた。本物の方も、もともと郷土の名産を模倣したチープなデザインの容器だ。それをわざわざ精密に縮小した食玩と並べてみると、とても変な気分になる。偽物の偽物である食玩の方が、密度が濃いだけに妙に存在感があったりするのだ。

あるとき、自宅の玄関の脇の靴箱の上のスペースで、僕の色々なコレクションの展示をやってみようと思いついた。テーマを決めて、定期的に展示替えをする。どんなにささやかでも、ここが私設の美術館であり博物館となるのだ。記念すべき初回は、駅弁容器とミニチュアとのペアを並べるというのはどうだろうか。僕はこのアイデアに得意になった。

それで、どうなったか。ごちゃごちゃして玄関の美観を損なうという家族の強硬な反対を受けて、結局計画は頓挫したのだ。