大井川通信

大井川あたりの事ども

「氷の微笑」 星野之宣 1999 

『宗像教授伝奇考』から雪女に関するエピソードを取り上げた勉強会でのレジュメの抜粋。以下、エピソードの粗筋。

・1930(S5)  与次平の母、結核のため療養所に隔離。  
・1937(S12) 与次平の父、山中で微笑しつつ凍死。
・1946(S21) 駆落ちの女、独居の与次平の小屋に逃げ込むが、連れ戻される。
・1964(S39) 若き宗像の聞き取りに、与次平は、女を「雪女」として語る。
・1999(H11) 宗像教授の再度の聞き取りに、父親は「雪女」に殺され、生き延びた与次平のもとに母親が現れるが、秘密を漏らしたために「雪女」の正体を現して立ち去った、という物語を話す。与次平の妻は、自分が駆落ちの女であり、後日与次平の押しかけ女房になったという真相を宗像教授に告げた後、あたかも「雪女」であるかのように姿を消す。

*個人の理解が及ばぬ体験が「超自然的存在」との関係で理解され、やがてその視点から諸体験に因果関係がつけられて物語化される。最後に、その物語が、現実の人々に作用を及ぼす。

*「大井川流域」との関連
・「平知様」 武将の墓、ホコラ、出征などの個々の事実が、戦勝祈願の物語としてまとめられ、多くの村人たちを動かす。敗戦によって、この物語は解体する。
・「水神様」及び「大井始まった山伏」  里人の間で共同化された物語(神木のタブー)によって、現実に地元の人間が傷を負う。