大井川通信

大井川あたりの事ども

『図解 古建築入門』 西和夫 1990

今、DIY講座で小さなホコラの改修を手伝っている。部材を完全にばらして、できるだけ古い部材を活かす。一部が傷んだ部材は、全体を交換するのではなく、そこだけ新しい材で埋木する。こうした考え方は、テレビドキュメンタリーで見た本格的な文化財の修復と同じだ。古建築をながめるだけのファンだった僕は、そのことにまず興奮する。

一回目は、井桁に組んだ土台と、その四隅に立てる柱の連結部分を掘る仕事を手伝った。丸鋸で切れ目を入れてもらったものを、ノミで落として、うまくつながるように細部を仕上げる。

二回目は、柱上部の掘り込みを仕上げて、梁(はり)や桁(桁)といった横材と連結させる。うまくつながるように掘り込みを調整するのは、とても難しく、神経がいる。ここで屋根を支える旧材を載せて、「棟上げ」が完了する。水のかかる土台の下部とは違って、上部の材は痛みがすくない。

建物の一番上の横材である棟木が載ると、人間でいえば背骨が通ったみたいに建物がしゃんとする。あらためて「棟上げ」が重要である意味がわかった。棟木は旧材で、そこには昭和九年に建立当時の棟梁の名前が墨で書かれている。

それから、垂木を作るのを手伝う。棟木の上で組み合わさるように丸鋸で材を斜めに切り、カンナで面取りをする。材木の断面を見ると、年輪の具合で、木の内側の「木裏」(きうら)と外側の「木表」(きおもて)とを見分けることができる。木裏は赤く、木表は白っぽい。木裏は腐りやすかったり、変形しやすかったりするから、木表を外側にするのがコツだと教えられる。

柱にするときは、根元の部分である木本(きもと)を下にして立てるのだそうだ。本来の樹木の上下や内外を意識して使うというのはなるほどと思った。しかし、これを単に知識として知るのと、実際に材木を扱いながら考えて作業するのとでは、まるで違う。

日本の古建築は、細かい部材が多く、完成すると隠されて見えない部分が大きい。写真や図面の入った解説書でも、実際の建物のつくりはなかなかイメージできない。この点で表題の本は、建物が造られる過程をていねいに図解してくれていて、ありがたい。しかも、比較的簡単な形式の建物から、複雑な形式へと三つのパターンが詳細に絵解きされるという親切さだ。

ただ、これほどの本でも、頭の中だけでシュミレーションして理解するのは難しく途中で投げ出していた。今回のDIY講座で現物を扱うと理解が助けられて、はじめて全体を読みとおすことができたのはうれしい。この講座の期間中、今まで積読状態の古建築本を読み通してみるという新たな目標もできる。