大井川通信

大井川あたりの事ども

『航空の驚異』 小森郁雄 1971

少年少女向きの固めの評論のシリーズだったポプラブックスの一冊。本の後ろのページにあるポプラブックスのラインナップを見ると、興味深いテーマが並んでいるが、僕が読んだのは、他には『公害のはなし』くらいだ。その本では、アメリカの市民運動家ラルフネーダーのことを知った。

小学校高学年の頃に読んだ本の中で、まっさきに思い出すのは『航空の驚異』だ。今回とても状態の良い古書を手に入れることができたのだが、どのページの写真や図解も鮮明に覚えていて、よほど熱心に読み込んでいたのだろうと思う。

気球やライト兄弟の初飛行から、世界大戦における軍用機の開発を経て、ジェット旅客機の実用化など幅広く取り上げられており、飛行に関する技術史の入門書といっていい。クライマックスはジャンボジェット(ボーイング747)の登場で、コンコルドなどの超音速機への期待で締めくくられている。

とくに印象に残っているのは、ジャンボに続く、より手軽なエアバスの開発競争の話題である。ダグラスDC-10、ロッキードトライスター、ヨーロッパエアバスの三つ巴の戦いが、リアルタイムの出来事として描かれていて興奮した。当時は、飛行機はおろか新幹線にすら乗ったことはなかったが、メーカーではダグラスが好きで応援していたのだ。

社会人になって、ジャンボを始めとして三つのエアバスに乗る機会は何度もあった。けれど、その時には仕事や目先の人間関係に頭がいっぱいで、旅客機へのあこがれを忘れていたような気がする。DC-10に乗ったときに、そういえば昔好きだったなあとぼんやり思い出すくらいだった。

ライト兄弟の初飛行から、この本まで約70年。その後、ほぼ50年の時間が流れている。ジャンボも日本の航空会社では全機引退したというニュースが先ごろ流れた。ロッキードもダグラスも消えて、アメリカの旅客機メーカーは、ボーイングだけになった。ヨーロッパのエアバスが、そのボーイングを凌駕するような会社になるとは想像できなかった。著者の予想に反して、超音速輸送機の時代は来なかった。

この本によると、ジョット旅客機の第一号は、1953年に実用化されたイギリスの「コメット」である。同機は空中爆発事故を起こし、その教訓によってより安全な旅客機の開発が進むようになったという。しかし、ごく最近もボーイングの最新鋭機が続けて原因不明の墜落事故を起こしている。事故と技術開発との戦いの歴史は、まだ続いているのだ。