大井川通信

大井川あたりの事ども

『科学の学校』 岩波書店編集部 1955

五巻セットの本が届く。箱はだいぶ古びているが、中身はきれいで思ったより状態がいい。長年心の片隅にひっかかっていた本を手にして、感無量だ。

敗戦後まだ10年の年に出版された子どもむけの科学の本。各巻は「宇宙と地球」「生物と人間」「物質・熱・光」「電気と原子」「機械と産業」のテーマに分かれていて、多くのモノクロの写真や図版を使いながら科学・技術全般に渡る詳細な見取り図を描いている。この後の時代の小学館の図鑑シリーズよりも、内容ははるかに本格的で、活字も小さく、まるで大学受験の参考書のようだ。

本の作りも重厚(同じ大きさの小学館の図鑑より実際にかなり重い)で、本体には「KAGAKU  no  GAKKÔ」とローマ字表記されているのが、子どもの僕には、大人の専門書のように感じられた。戦後社会の復興と発展のために、子どもの科学教育が何より大切で必要だという思いに支えられた出版という気がする。

僕の実家の隣には叔父夫婦の家があって、両親とも教員だったから、実家より経済的にはかなり恵まれていた。「少年少女文学全集」とか、子ども向けの百科事典がそろっていたから、従弟の家に上がり込んで、ずいぶん読ませてもらった記憶がある。この五巻本も、年長の従弟の教育のために叔父たちが購入したものだったのだろう。星や宇宙に興味があった僕は、特に第一巻を熱心に読んだものだった。

もはや最新ではなくなった解説書だが、高度成長前夜の雰囲気をたたえていて、どこか懐かしく、歴史的資料としてひもとくこともできるだろう。編集者たちが期待する読者ではなくなった僕だが、一ページ一ページをていねいにめくって、読み通してみたい気持ちにかられる。